市民にロシアとの戦争への備えを訴えるスウェーデン
欧州では今年に入ってから、ロシアなどとの戦争が現実味を帯び、戦闘に備えるようにとの各国の政府高官などによる発言が相次いでいる。今年総選挙が予想されている英国でも15日、シャップス国防相が演説で、この5年でロシアや中国、イラン、北朝鮮との紛争の危険が高まるだろうと発言し、各国による国防支出増大の必然性を力説した*4。
*4:Defending Britain from a more dangerous world(GOV.UK)
中でも、一昨年NATOへの加盟申請を行ったスウェーデンでは、今月7日にボーリン民間防衛相が、今後スウェーデンでの戦争勃発の可能性を明言したことが、衝撃を持って受け止められた。ボーリン氏は民間人に対しても単刀直入に「来る戦闘に迅速に備えよ」という趣旨の発言を行なったからだ*5。
*5:Speech by Minister for Civil Defence Carl-Oskar Bohlin at Folk och Försvars annual national conference in Sälen on the 7th of January 2024(Government Offices of Sweden)
同氏は演説の初めに、210年もの間平和を享受してきたスウェーデンでは、戦争やテロなどの脅威がどこか別の場所で起きていると考える「精神的な防衛メカニズム」が働いていると指摘。 その上で、現在、世界は第2次世界大戦以来最大の危機に瀕しているとし、祖国防衛は国民全ての問題であり、それぞれの分野で対策を講じる義務を負うと主張した。
同氏の発言は「行動を起こさないことは許されない」とまで踏み込んでいる。様々な分野の人々に、備えるべき具体例も示した。例えば、一個人であるならば「家庭の備えに責任を持っているか。自主防衛組織に参加する時間について考えたことがあるか。ないのなら、動くべきだ!」などと、強く促している。
ボーリン氏の演説は不適切だとの批判もある一方で、スウェーデン軍最高司令官のビューデン将軍も同じ場で同意の発言を行なっている。ビューデン氏は人々が事の重大性を鑑み、精神的に備える必要性を訴えた。
フランス24は、この発言を受けたスウェーデンの市民が、燃料や水タンクなどの非常用品を買いに走る様や、防空壕へのオンライン地図、また戦争に備えるための小冊子へのウェブアクセスが激増した様子などを伝えている。非常用キットに商機を見出した企業もあるという*5。
*5:Sweden's call for population to prepare for war sparks panic and criticism(FRANCE24)
英ガーディアン紙は、スウェーデンで来年兵役に召集される予定の18歳の女性への取材を行なっている。10万人のうち1割程度は徴兵されることになるという。これまでは志願兵のみであったものが、兵士の不足から当局は昨年、方針転換を余儀なくされた。同紙はこの中で、クリステション首相の、スウェーデンの安全を確実にするのは市民であり「市民権とは(単なる)渡航証明書のことではない」という発言を引用している*6。
*6:‘It might as well be me’: young Swedes prepare for new form of national service(The Guardian)