2022年5月上旬ドニプロ/イジューム戦線でタンク攻撃で負傷した兵士。「あなたにとって平和とは何か」と聞くと、負傷した腕をあげて「勝利!」と答えた(香港人フォトジャーナリスト、クレ・カオル氏撮影)
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(高世 仁:ジャーナリスト)

「もし日本が攻められたら、自分のことだけ考えて逃げていいんだよ」

 東京で開かれたウクライナの戦禍を伝える写真展で、私のすぐそばにいた女性が、小中学生と思われる2人の子どもにこう語りかけた。

他国に侵略されたら「抵抗せずに降伏する」が賢明な選択なのか?

 私とその母子3人が見ていたのは、ロシアとの戦闘で重傷を負い、病院のベッドに横たわるウクライナ兵士の写真である。キャプションには〈「あなたにとって平和とは何か」と聞くと、負傷した腕をあげて「勝利!」と答えた〉とあった。

 母親が子どもに「逃げろ」と言うのも理解できなくはないと思いつつ、写真に写る兵士の決然とした表情とのギャップが、違和感となって私の中に広がっていった。ウクライナの状況を多少なりとも知る私には、彼女の言葉が、かの地で戦い続ける市民と兵士を侮辱するかのように聞こえたのだ。

 そのとき思い出したのは、一昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後に放送された、ある民放ワイドショーでのコメンテーターの発言だった。ウクライナが勝つ見込みはなく、戦いが長引けばより多くの犠牲者が出る、だからウクライナは無駄な抵抗をせず早くロシアに降伏すべきだというのである。

 彼は「命より大事なものはこの世にはない」と言って話を結んだ。SNS上では、少なくない人がこの発言に賛同していた。