新著『自由への道』の出版に合わせて記者の質疑に応じるジョセフ・スティグリッツ教授(筆者撮影)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

「成長率が高まれば誰もが恩恵を受ける約束だった」

[ロンドン発]米国を代表する経済学者でノーベル経済学賞受賞者、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が5月2日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)で質疑に応じ、マーガレット・サッチャー英首相とロナルド・レーガン米大統領の新自由主義は失敗したと断罪した。

1985年2月、ホワイトハウスで会談したロナルド・レーガン大統領とマーガレット・サッチャー首相(写真:Shutterstock/アフロ)

「サッチャー、レーガン以来、40年間続けてきた新自由主義の実験は失敗し、人々はその本質と大きさを理解し始めている。成長率が高まり、トリクルダウン経済学と呼ばれる神秘的なプロセスを経て成長率が高まれば誰もが恩恵を受ける約束だった」とスティグリッツ氏は振り返る。

 しかし実際には米国の経済成長は著しく鈍化した。中間層の賃金は低迷し、下層部ではさらに悪化して実質賃金は60~65年前と同じ水準に落ち込んだ。アマゾンのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏のように上位400人に生まれると分かっていたら米国は良い国だ。

 衰退する欧州より米国は成長しているように見える。「しかし中間層に生まれるとしたら、それほど良い国ではない。平均寿命は他の先進国に比べ短い。医学分野で最高の研究が行われているにもかかわらず、富裕層と貧困層の平均寿命の格差は非常に大きい」(スティグリッツ氏)