「よくわからないけど、わかったよ」
――国交省有識者会議では、路線の見直し協議入りの目安として「輸送密度1000人未満」という水準が示されました。森さんが改革に携わった富山港線以上に厳しい路線が対象になりそうです。
森氏:鉄道はいったんなくしてしまえば、回復するのはほとんど不可能です。なるべく公費を入れ、将来市民のために残すのが望ましいとは考えています。
ですが、これは「何が何でも鉄道を残せ」ということではありません。どこまで残すのが妥当なのか、地域において議論されなければなりません。
最適化ということを考えれば、ある駅からある駅までは公費を投入してピストン輸送する。でもその先はデマンドバスにする。あるいは、仮に高校生2人しか乗っていないのであれば、タクシー代を払った方が安くなることだってあり得ます。
どういう選択が妥当なのかということは、自治体や市民、地域のステークホルダーの間で検討し、着地点が探られるべきです。
そういう必要性がある路線においても、これまで協議の場が設けられないことが散見されました。自治体が「協議の席に着くということは廃止を認めることになりかねない」と及び腰になるケースです。
今回の提言は、最低限そうしたテーブルで協議しましょうということを国が後押しするものです。
滋賀県の近江鉄道は今、県と関係市町、ステークホルダーらの間で存続策が検討されているようです。どこまで公費が投入できるのか、便数は減らすのか、増やすのか。関係自治体によって考え方もさまざまでしょう。
富山市はJR高山線(富山駅―岐阜駅)の活性化にも取り組んでいます。富山県内分はJR西日本が管轄ですが、富山市が負担して増発をしています。駅前広場やパーク&ライドの整備、新駅の設置もしました。利用者数は右肩上がりで伸びています。
赤字だけど市民の足。だから何とか守りたい。そういう性格の線はあちこちにあります。嘆いているだけでは変化はありません。
――廃線はネガティブな印象が強く、日々地域住民と接する自治体が踏み出しにくいという気持ちもよくわかります。
森氏:この努力をすることが首長のリーダーシップです。一切の努力をせず、交通事業者の責任でやれと言ってしまう自治体も多くあります。お金を配ったり、何でもタダにしたり、そうやって首長を続けるのなら誰でもできます。
私が大事にしていたのは「説得責任」です。よく行政にかかわる人たちは「説明責任を果たす」と言いますが、そうではありません。目の前の市民をいかに説得しきれるか。情熱を込めて、将来像を語れるかです。
LRT化に向けた改革の当初は、1回2時間の説明会を年間で120回ほど開きました。1日に4回開いたことも何度もあります。
「よくわからないけど、わかったよ」
理解はしてくれなくとも、最後にはそう言ってくれる方もたくさんいましたね。そこまで言うなら、と。これが多くの方の実態だと思います。こちらが本気で熱を込めて語れば通じると思っています。
――地域にとって鉄道は思いのこもった存在です。ノスタルジーを抱く住民も多いと思います。地域の姿勢どうあるべきでしょうか。