- ネット企業DMM.comが、電気自動車(EV)向け充電インフラサービスに参入する。いわゆる「テスラ方式」と日本独自の「CHAdeMO」の両規格に対応する計画だ。
- 充電インフラ普及を加速させる政府目標を追い風に、主にベンチャーを中心に事業化が相次いでいる。
- すでに「EV充電インフラバブル」の様相でサービスが乱立する懸念が出てきた。サービス間の連携が不十分なら利便性は向上せず、結局EVは普及しないという事態にもなりかねない。(JBpress)
(桃田健史:ジャーナリスト)
このところ、電気自動車(EV)の充電インフラサービスに新規参入する企業間の競争が激しさを増している。直近では、オンライン・エンターテインメントなど多様な事業を行うDMM.comが12月12日に記者会見を開き、「NACSとCHAdeMOの両規格に対応するダブルコネクタ急速充電器」を使ったサービスについて説明した。NACSなどの充電インフラ規格については本稿後半で補足するが、簡単に指摘しておくとNACSは「テスラ(米国)方式」、CHAdeMOは「日本方式」だ。
DMM.comによれば、ダブルコネクターの日本導入を明らかにしている企業はほかにもいるが、実機を公開したのはDMM.comが日本初という。実際のサービス開始は2024年度を予定しており、DMM.comは充電器メーカーと量産機器に関する協議を進めている。
DMM.com以外では、南アジアで小型EVの製造と販売で実績のあるテラモーターズ、電気やガスのサービスを切り替える事業を主体とするエネジェンジなど、主にベンチャー企業の充電インフラサービス市場への参入が目立つ*1。
*1:超急速充電インフラ「無料」提供のカラクリ、EVベンチャー100億円超投資(JBpress)
こうした各社の市場参入のきっかけは、国による「充電インフラ整備促進」に対する積極的な動きによるものだ。政府は2021年6月、改訂したグリーン成長戦略の中で「2030年までに、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置する」との目標を掲げた。
さらに、経済産業省が2023年10月に公表した「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、グローバルでEVシフトが進んでいる状況を踏まえて、充電インフラ整備を加速させるとしている。具体的には、「2030年までに15万口→30万口」と設置目標を倍増させ、充電器の総数と総出力では現在の10倍まで一気に引き上げるとした。
充電インフラ整備にかかわる補助金についても「限られた政府の予算を活用して、効果的に民間投資を促す」とし、今後も補助金の継続的な運用を示唆している。新規の充電インフラサービス事業者が、主な顧客である充電インフラを導入する事業者に対して、初期費用や月額費用を「0円」にするといった思い切った料金設定ができるのも、こうした国の支援があってこそだ。
桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
◎Wikipedia