(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
12月4日、いいニュースが飛び込んできた。香港の民主活動家だった周庭さん(27)の現況がわかったのだ。
現在、カナダ・トロントの大学院に留学中で、「(香港に)おそらく一生戻らないことを決意しました」「私はただ自由に生きたいと思っています」とSNSで述べたのである。
周庭さんは、2014年の香港民主化運動「雨傘運動」などにリーダーの一人として参加して一躍注目され、香港の「民主(学民)の女神」と呼ばれた。2020年にはBBCが選ぶ「今年の女性100人」の内の一人に選ばれた。
しかし民主化の盛り上がりに危機感を抱いた中国が、それまで一国二制度下で民主制が保証されていた香港を、急に締め上げにかかったのである。議会から民主派を一掃し、傀儡政府を作った。
2020年に逮捕され…
周庭さんは、2020年8月に、香港国家安全維持法(国安法)違反の容疑で逮捕された。そのときに感じた恐怖は「とんでもなかった」という。
その後、いったん釈放されたが、11月、禁錮10か月の判決を受け、収監されたのである。21年6月に満期より2か月早く出所したが、出所直後の周庭さんは、心を潰され、憔悴しきっているように見えた。このまま無名の人になってもいいが、立ち直れるかどうかが心配だった。
彼女は、出所後も再び警察に逮捕されるのではないかとおびえる日々がつづき、パニック障害やPTSDに悩まされたという。「彼女は収監中も出所後も、刑務官から受けた屈辱的な身体検査や逮捕される瞬間の恐怖の記憶のフラッシュバックに悩まされ、突然の震えや叫びだしたくなるような症状に苦しんでいた、という」(「民主の女神」周庭氏が語る亡命の真意「香港は大好きだけど恐怖でいっぱい」、JBpress、2023.12.9)。
現在、世界にはシリアやアフガニスタン、南スーダンなどを主として、難民が1億人以上いると推定されている。その他、なんの罪もないのに収監されている人も無数にいる。しかしかれら全員を心配することはできない。
わたしには気になる特定の人物がいるだけである。たとえばロシア人の民主活動家ナワリヌイ(「プーチンが最も恐れた男」ナワリヌイが身をもって示したロシアの良心、JBpress、2023.4.5)。周庭さんはそういう人たちの一人だった。