「自由も日常生活も基本的人権もすべて奪われていた」
周庭さんは出所後、一切の情報がなかった。家族とともに、静かで穏やかな日々を過ごしていればいいのだが、と思っていた。
しかし彼女は、「過去3年間、寛大な対応など一切なかった。自由も日常生活も基本的人権も、この3年間、すべて奪われていた」といっている。
香港では、逮捕された人権派弁護士の留守家族の家に、常時国家安全当局の人間が5、6人張り付いているのを、番組で見る。周庭さんの家もまたつねに監視され、彼女の行動も逐一見張られていたと想像される。穏やかな日々どころではなく、気の休まるときは一瞬たりともなかったのではないか。
周庭さんは今年に入り、このままじっとしているより外国に留学したいと考え、カナダの大学院への進学を決めた。しかしパスポートは当局に没収されたままだった。
香港警察の国家安全当局に留学の申請をすると、パスポートを返却する条件として、今後政治活動に二度とかかわらないことを約束する懺悔状を書かされた。
さらに5人の国安担当者とともに中国本土の深圳に行くことを要求された。彼女は深圳行きを決断したが、「とても、とても怖かった」といっている。それはそうだろう。中国はなにをするかわからない。そのまま中国本土に拉致されない保証はないからである。
深圳では、「改革開放展覧会」に連れていかれ、中国共産党や歴代指導者の業績を見学する「愛国教育」を受けた。また中国のIT大手のテンセント本社を見学させられた。その後、「祖国の偉大な発展を理解させてくれた警察に感謝します」との文書を書かされ、やっとカナダ留学が認められたという。
これらの一切を「弁護士にも家族にも友人にも、誰にも言わないようにと警察から言われた」というが、中国のやり方がいかにも幼稚である。やたら写真を撮りまくり、文書を書かせたがる。それが公正に通用しようとしまいと関係ない。とにかく証拠をとりたがるのである。
こうして、周庭さんはやっと今年の9月にカナダに留学できた。しかし彼女は12月末に、いったん香港に戻るつもりでいたのである。学期の変わり目ごと(あるいは3か月ごと)に警察への出頭義務があったからである。
しかし彼女は香港に戻らないことを決めた。「香港の状況、自身の安全、心身の健康などを慎重に考慮した結果、おそらく一生戻らないことを決意しました」。難しい決断だったが、いったん帰ってしまえば、周庭さんの処遇に関する裁量権は完全に中国側にあるからである。なにが起きても、そうなってしまえばどうにもならない。
「自分のやったことを後悔させてやる」
これに対して、メンツをつぶされた香港警察当局は「法に公然と反する無責任な行為を、厳しく非難する」との文書を出し、今月末までに香港に戻って出頭するよう呼びかけた。保安局長の鄧炳強という男はなにを考えてるのか、「絶対に自分のやったことを後悔させてやる」と発言したという。バカじゃないのか。