国宝『源氏物語絵巻』は、平安時代の末、院政期の宮廷を背景に制作されたようだが、絵師やパトロンの名はわかっていない。当初、おそらく十数巻から20巻くらいの規模で100場面ほどが描かれたと考えられているが、現在は、19場面の絵と詞書(ことばがき)しか残っておらず、近年、断簡1点の存在が明らかになった*1

*1)『天皇になれなかった皇子のものがたり──源氏物語』三田村雅子(新潮社・とんぼの本)より

根底に息づく国宝『源氏物語絵巻」

 図1をご覧いただきたい。場面は、光源氏の息子、夕霧の邸宅。急に泣き出した赤ん坊を、妻・雲居の雁があやしている。恋慕する落葉の宮のもとから、深夜遅く帰宅した夕霧は、「あなたが夜遅くまでうかれ歩いて、夜更けのお月見とやらで格子を上げたりするものだから、物の怪が入ってきたのよ」などとなじられる。

【図1】『あさきゆめみし』第5巻P129より ©大和和紀/講談社【図1】『あさきゆめみし』第5巻P129より ©大和和紀/講談社

 この場面が、図2の国宝絵巻へのオマージュであることが見てとれるだろう。しかしながら、『あさきゆめみし』は、漫画ならではの表現を駆使し、登場人物の表情のアップなどもあわせて描くことで、雲居の雁の怒りと夕霧の動揺が手に取るように感じられる。あたかも、国宝絵巻の場面が、生き生きと動き出したかのように思えるのだ。

【図2】国宝『源氏物語絵巻』「横笛」 和田正尚/模写 明治44(1911)年(国立国会図書館デジタルコレクション蔵)【図2】国宝『源氏物語絵巻』「横笛」 和田正尚/模写 明治44(1911)年(国立国会図書館デジタルコレクション蔵)

 こうした国宝絵巻を再構築した場面はほかにも見られる。