住民には苛立ちもあった。空襲で家を瓦礫の山にされた女性は「もう、うんざりよ‼」「私たちがハマスとは何の関係もないことぐらいイスラエルだって知っているのに‼ もう、ハマスもファタハもパレスチナも、うんざりよ‼」と大きく手を広げた。
政治集会では一人の女性がハマスの兵士に食ってかかっていた。
「あなた達に何ができるっていうの‼ 何も変わらないじゃない‼」
その一方でイスラエルからの攻撃があるたびに、熱狂的にハマスを支持する人々の数は増えていった。
積み重なり受け継がれていく憎しみ
ある日、ガザ地区とエジプトとの国境の町ラファで、殉教したハマス兵士の葬儀があった。現場に駆け付けると、町は騒然としていた。降りしきる雨の中で2000人を超えるであろう男たちが口々に叫び、手を振り上げている。男たちの体からは湯気が立ち昇っていた。
「アッラーアクバル‼ アッラーアクバル‼ シオニストに死を‼ 復讐だ‼」
ハマスの兵士たちが殉教した4人の仲間の遺体を担いでいた。4人はユダヤ人入植地にゲリラ攻撃をかけ、イスラエル兵3人を殺害したが射殺された。その遺体が戻されてきたのだという。
ガザ地区ではこのような死が日常の先にあった。将来に絶望した若者が親にも内緒で志願して自爆テロを起こすことも珍しくない。彼らは子供の頃から紛争の真っ只中で生きてきたのだ。
葬列の中から自動小銃と手榴弾で武装した一人の年端もいかない少年がこちらに向かって口を尖らせ何かを喚いた。アズミが通訳した。
「僕もやってやる。ユダヤ人を吹き飛ばしてやる」
こうやって憎しみは積み重なり受け継がれていく。モスクから4人の遺体が出て来た瞬間、興奮は最高潮になった。白地に紺のダビデの星が描かれたイスラエル国旗に火がつけられ、燃え上がったイスラエル国旗はたちまち灰となった。
男たちの叫び声が一段と強くなった。
「アッラーアクバル‼ 復讐だ‼」

