――自賠責は法律で加入が義務付けられている公共性の高い保険です。こういう保険から、営利企業が大きな利益を生んでいるとすれば問題ですね。
松永 おっしゃるとおりです。契約者にとってみれば、自賠責保険はどこで加入しても全く差がない商品ですので、代理店のさじ加減で引き受け保険会社が決まってしまう側面があります。そのため、ビッグモーターのように大きな契約件数を持っている販売代理店に対しては、損保各社の営業がどうしても過度になる傾向があります。
実際に、東京海上日動が提携損保として大きく関わり、モーター代理店を組織化している全日本ロータス同友会をはじめ、自賠責を含む保険の獲得を目標に設定したキャンペーンを実施している事例はいくつもあります。そして、契約を多く奪取した代理店には、その「ご褒美」として賞品などが贈られています*。
* 【註】初出時には〈そして、契約を多く奪取した代理店には、その「ご褒美」として報奨金などが支払われています。〉としていましたが、東京海上日動広報部から「東京海上日動は、特別賞として、例えばマグカップや数千円のカタログギフトを進呈することはあってもお金を支払っている事実はありません」というご指摘がありました。したがって、「報奨金」という表現は不適切で誤解を招くため、「賞品」に訂正させていただきました(2023年10月7日:JBpress編集部)
損保の言いなりでなく、ユーザー自らが納得できる修理工場を選ぶ必要も
――任意保険だけでなく、自賠責の契約についても報奨金の対象になっているのですか。
松永 はい。業界ではよく知られていることです。しかし、自賠責保険は「ノーロス・ノープロフィット」が建前です。この保険に対して報奨金が拠出されているということ自体、この保険に利益があるという裏付けだと思います。何より、報奨金を出してでも自賠責をゲットしたいというのが損保会社としての本音ではないでしょうか。
――ずいぶん前ですが、自賠責問題を取材しているとき、当時の運輸省の担当者が「自賠責保険は伏魔殿です……」と言ったことを思い出します。自賠責は対人保険なので、修理工場や販社の問題とは無縁のように思っていましたが、実はこうした利害でつながっているのですね。最後になりますが、自動車ユーザーとしては、万一のとき、何を基準に修理工場を選ぶべきなのでしょうか。
松永 とにかく、契約者が自らの判断で自動車修理工場を選択し、納得した作業内容で修理を依頼することが大切です。そのためには、修理工場の質の可視化が重要だと思います。保険を利用した修理を希望する場合と、自費修理で廉価に保安基準を適合させるだけの最低限の修理では、任せる工場も自ずと変わると思います。
最近の車は電子化が進み、軽量化のためにさまざまな異種材が使われるようになりました。自動車の修理は高度化しており、安全性能や環境性能を回復させることのみならず保安基準に適合させる最低限の修理でも作業が難しくなる一方です。
また、自動車の進化に伴ってルールも変化していますので、保安基準に適合させるだけの最低限の修理といっても電子制御装置整備対象車とそうでない車両が混在している現在、一般ユーザーである契約者が、修理に適した修理工場を判断することは容易ではありません。契約者それぞれのニーズに対応した適切な自動車修理工場を判断するためにも、質の可視化が重要だと思います。
――質の可視化……、なかなか難しいテーマではありますが、今回の問題をきっかけに、受け身ではなく、修理内容や工賃に疑問があればしっかりと確認していかなければならないと感じています。ありがとうございました。