破壊からの再構築

 メジャー4枚目のアルバム『FAKE STAR~I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER~』(1996年5月)はデジタル要素を大きく取り入れたエッジィな作品だ。表題曲「FAKE STAR」は、当時のヒットチャート史上のJ-POPシーンを強烈に皮肉ったもので、後期黒夢のアイデンティティといえる楽曲だ。

 バラエティ番組など、音楽以外のメディア露出が多くなった清春に対し、ファンからの非難の声もあったが、「1位を取れば好きなことをやっても許される、だから1位を取りたい」というようなことを清春が発言していたのをよく覚えている。本作『FAKE STAR~I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER~』は、前作『feminism』と大きく作風を変えながらもオリコン初登場1位を獲得した。フェイクスターならぬ、ロックスターになった。

黒夢「FAKE STAR」(1996年)

 人気を不動のものとした黒夢は男性限定ライブを行うなど、ライブバンドとしての真価を発揮し、攻撃性を強めた楽曲が増えていった。1位を取れば好きなことをやっても許される、そのことを証明する、黒夢の破壊からの再構築が始まったのだ。

 パンク路線を決定づけたアルバム『Drug TReatment』(1998年5月)を完成させ、日本武道館公演の9日後に新宿LOFTでのライブを敢行。その過激さと熱はライブアルバム『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』(1998年1月)として、パッケージングされている。

黒夢「少年」 (1997.10.31 Live At Shinjuku Loft)

 ビジュアル面も言葉とともに、形骸化したヴィジュアル系に抗うようにストリートパンク色を強めていった。シングル「少年」(1997年11月)のミュージックビデオでは、ついにノーメイクとなった清春が上半身裸というスタイルで歌い、強烈なインパクトを与えた。おそらく世間的な黒夢のイメージは、この頃を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

 ヴィジュアル系出身ではあるが、パンクでもある。たとえノーメイクであっても、上半身裸になろうとも、ヴィジュアル系のみならずストリート系を飲み込んだファッションリーダーとしてもカリスマであったし、ロックボーカリスト、バンドのフロントマンとしての圧倒的な清春の存在だ。そのオーラは凄まじいものがあった。カミソリの鋭さ、ありきたりの表現だが、見ているだけで怪我をしそうなくらいだった。

 この頃はX JAPANのYOSHIKIやLUNA SEAのRYUICHIなど、トレードマークであった長い髪をバッサリ切ったり、メイクを薄くしたり、はたまた落としたり、洋楽嗜好を強めた音楽などと合わせて、脱ヴィジュアル系をしたアーティストも少なくはなかったが、黒夢ほどスマートに変化を遂げたバンドはいないだろう。