大谷 達也:自動車ライター

新生ジャガーのデバイスマーク

これがジャガー!?

 ジャガーが激変する。

 1935年にイギリスで創業して以来、スポーツカーやスポーツサルーンなどを手がけてきたジャガーは、爽快で質の高いハンドリングと控えめで洗練されたスタイリングで多くのファンを獲得してきた老舗。しかし、先ごろ発表された新しいコーポレイトアイデンティティやデザインコンセプトを見ると、彼らがそうした伝統をかなぐり捨て、まったく新しい価値観でブランドを再構築しようとしていることがわかる。

2024年11月19日に公開された「Copy Nothing」と題されたブランド刷新キャンペーン動画

 今年の11月以降、ジャガーは開発中の次世代プロトタイプ車両や刷新されたコーポレイトアイデンティティを発表。そして12月2日(現地時間)にはアメリカ・マイアミで開催されるアートウィークでデザインコンセプトモデルをアンベイルして新しいブランドの姿を全世界に向けて発信したが、なかでも彼らのコンセプトがもっとも具体的な形で表現されているのは、やはりデザインコンセプトモデルだろう。

コンセプトモデルと著者・大谷 達也氏

これまで見たことのないジャガー

 2ドア・2シーターのグランドトゥアラーと思しきデザインコンセプトは、極端に背が低く、そして前後に長いプロポーションが特徴的。とりわけキャビン部分が天地方向に薄く、前輪からフロントドアの前端までの間隔(これを“プレミアム・ディスタンス”という)が長い点が目を惹く。まるでアニメーションの世界から飛び出てきたような、これまでにまったく見たことのないプロポーションだ。

 ボディーサイドにアクセントをつけるキャラクターライン(プレスライン)が極端に少なく、ボディーパネルも極めてシンプルな面仕上げとなっている点も注目される。そしてボディーのエッジ部分は触れると指先が切れそうに思えるほどシャープな直線か、コンパスを使って描かれたように見えるくらいシンプルな曲線で構成されている。

 全体として恐ろしくスッキリしていてシンプルなのに、まるで金属の塊のようなソリッド感と存在感を備えた造形だ。

 フロントとリアがこれまでの自動車とまったく異なる発想でデザインされたことは一目瞭然。また、平行な直線をいくつも繰り返した“桟”のように見えるデザインモチーフも斬新である。

 これはフロントグリル、ボンネット上、リアエンドなどのエクステリアだけでなく、ダッシュボード上やシート後方のデッキ部分に用いられている。デザイナーが明確な意図を持ってこれを採り入れていることは明らかだ。

 ボディーカラーも1台はピンク、もう1台はブルーと、従来のジャガーでは見られなかったビビッドな色合い。ここにも、伝統と決別しようとする断固たる決意が見て取れる。