南海トラフ地震を想定して神津島で行われた総合防災訓練(2022年、写真:UPI/アフロ)

 10万人以上の犠牲者を出した関東大震災から今年でちょうど100年。9月1日の「防災の日」に合わせて大震災の被害想定と復興のあり方を考える企画。前回の首都直下地震に続き、今回は死者・行方不明者32万人とされる「南海トラフ巨大地震」の被害想定と日本の国づくりについて考えてみたい。(JBpress編集部)

【第1回】「発生確率70%の『都心南部直下地震』、死者6000人超の被害が想定される惨状」を読む

南海トラフ被害は全国に拡大、影響は海外にまで及ぶ

 この先起こりうる天災による日本全体の被害想定を見ると、やはり心配なのは「南海トラフ巨大地震」の発生だ。首都直下地震では直接的な被害が東京圏にとどまるのに対し、南海トラフは日本全体が打撃を受けるほか、輸出入低下など世界的な影響も懸念される。

 内閣府の『南海トラフ巨大地震の被害想定について』(令和元年)によると、その被害の実相は想像を絶するものがある。

●超広域的な甚大な被害
中部、近畿、四国、九州を中心とする超広域エリアで地震動、液状化、津波による浸水、火災等で甚大な被害が発生。阪神・淡路大震災や東日本大震災をはるかに超えるものと想定。

●製造業集積地帯の被災による全国・海外への波及拡大
被害が想定される太平洋ベルト地帯には鉄鋼、石油化学工業、自動車製造、船舶・航空機製造、電子・電気機器製造が高度に集積し、全国、海外にまでサプライチェーン・ネットワークが形成されている。このため経済的被害は全国・海外へ波及。

●食料生産地被災、サプライチェーン寸断による全国的な食料品不足
被害が想定される地域には多くの農地や漁港、食料品工場等が集積しているため、食料品や生活必需品の供給が滞ると、被災地以外でも品不足から価格が急騰し市民生活に影響。

 このほか、東名・名神高速道路、東海道・山陽新幹線、名古屋港、大阪港、神戸港など物流の大動脈が寸断され、全国の生産活動が低下し、輸出入とりやめなど被害が拡大する。

阪神・淡路大震災で寸断された高速道路(写真:AP/アフロ)

 さらに生産機能の国外流出により、中小零細企業の倒産が相次ぐ。日本経済の先行き懸念から株価暴落、金利、為替の急変動で資金調達コストが増大、大企業でも財務が急速に悪化し、企業体力が大幅に低下する。巨大地震発生直後にこれだけの経済的ダメージを受けることになる。