(英フィナンシャル・タイムズ電子版 2023年8月11日付)

ロシアが改訂した新しい教科書(8月10日撮影、写真:ロイター/アフロ)

 ロシアの高校に通う第11学年――年齢で言えば17歳前後――の生徒たちは9月から現代史の授業で新しい教科書を使用する。

 現在までの出来事をカバーする本であるため、「ウクライナは超国家主義の国だ。今日のウクライナでは、反体制派はいずれも激しい迫害を受ける。野党は禁止され、ロシア的なものはすべて敵対的と見なされる」と教わることになる。

 クレムリンの世界観に完全準拠したこの教科書は次のようにも説く。

「米国はウクライナ紛争の最大の受益者になった・・・米国は『ウクライナ人の最後の1人まで』戦う決意でいる」

ロシア人の新しいアイデンティティー醸成

 不愉快な教科書だが、これはウラジーミル・プーチンの権力掌握から23年にわたってロシア社会が浴びてきた反ウクライナ、反西側のプロパガンダの新たな一滴にすぎないなどと思ってはいけない。

 歴史の悪用の背後にはもっと大きな企みがある。

 確かに、狙いの一つは、プーチンの攻撃的で領土拡張主義的な外交政策の支持者を呼び集めることだ。

 だが、クレムリンはもう10年以上前から、歴史の公式版の構築に資源を割いてきている。その目的はロシア人の新しいアイデンティティーの醸成にほかならない。

 この取り組みは学校で用いる教科書にとどまらない。

 各種の祭り、映画、テレビ番組、過去の服装や装備を身につけて楽しむヒストリカル・リエナクトメント(歴史再現)クラブ、子供向けの軍事史跡ツアー、学生弁論会、壁画、銅像などにまで及ぶ。