中国では、賃貸用途での住宅購入が難しい
ただ賃貸市場の拡大は、賃貸物件の所有者(大家)に恩恵をもたらしているとは限らない。
要因の一つは、中国における「住宅価格対家賃比率(Price-to-Rent Ratio)」の高さだ。賃貸用途で住宅を購入しても、家賃収入がなかなか購入金額を上回らないのだ。
例えば2000万円で購入した家を月額家賃10万円で貸し出したとすると、家賃収入が購入金額を上回るのが200カ月で、住宅価格対家賃比率は200となる。ところが、次の表に示すように、中国はこの比率(回収できるまでの月数)が非常に高い。
中国の757というのは「60年以上かかる」ことを意味する。米国の比率が相当小さいのはおくとしても、世界平均や日本と比べても大幅に長い。
これでは、賃貸用途として住宅を購入しようとする人がなかなか現れない。
サブリース企業の事業も楽ではない。2019年には53社が倒産している。大手の蛋壳公寓(DANKE APARTMENT)が倒産した際には数十万件もの物件の家賃が回収できなくなり、不動産所有者と借主の間の賃貸契約が無効になってしまった。
サブリース企業や個人の不動産所有者は、本来の居住可能人数を超えて賃す「群租」という方法で利益を上げようとしてきた。ただ、この問題のある手法は規制が始まっていて、次第に通用しなくなるだろう。
2023年7月深圳市の地方政府は、違法に建築された住宅や都市整備が不十分である「城中村」と呼ばれる地域の不動産を一括して借り上げ、公営住宅として長期間にわたり安価で貸し出すという「統租房」政策を発表した(「房租翻2倍!深圳“统租房”多方共赢,只有租客输麻了?」)。
これまで中国には公営住宅が多くないうえに、入居に居住地の戸籍が必要で新築物件だけであることなど、一番必要な人々がなかなか利用できないものだった。
深圳市の取り組みは、シンガポールで広く導入されている「Housing Development Board(HDB)」制度に近いと思われる。
この制度が中国全土に広がるかどうかはわからない。ただ、持ち家信仰が強かった中国でも、「持ち家から賃貸へ」という動きが今後進むことは間違いなさそうだ。