実体は地元漁協を黙らせるためのバラマキ予算か

 いわゆる福島復興予算は、東日本大震災に伴う事故後11年間(22年度末)までの累積額(復興予算の執行額)で39兆4000億円余りに上ります。

「復興に費用対効果は考えないのだ」「被害者については救済しなければ政府の責任は果たせないのだ」という声もあり、それはそれで正論とは思いますが、一方で、年間の国家歳入(税収)の7割に匹敵する金額を福島に突っ込み続けてきたのは、採算度外視の“お気持ち”の延長線上にあるものとも言えます。

【解説】東日本大震災・原発事故「復興予算」 ゼロからわかる福島のいま 第20回

 途方もない金額を使って実施した除染や今回のALPS処理水の海洋放出は、いずれも「科学的根拠は乏しいが、安心安全のために使われるおカネ」です。

 その中でも、今回の件は誠に残念なことに、根拠のない処理水海洋放出への批判を主とする風評被害対策費と称した800億円もの税金投入であり、実際には処理水海洋放出に反対する地元漁協を黙らせるためのばらまき予算なのだと指摘されても致し方ない面があります。いまのままの福島県の漁業に、いままでの復興予算とは別に800億円も突っ込む価値があるとでも思ってるんですか。

 そうであるならば、福島・浜通りの漁業を合理化するために投資し、ノルウェーのような養殖を主体とした水産業への脱皮も考えられたはず。それなのに、あくまで処理水放出のことだけ考え、地元の理解が得られればいいのだろうと予算を積んだ結果がこれだろうと思うのです。

 東京海洋大学の勝川俊雄さんや水産業に詳しい片野歩さんら、福島県の漁業が取り組むべきアプローチについては、より発展的な議論が展開されてきました。

「魚が獲れない日本」と豊漁ノルウェーの決定的差
基礎からわかる「トリチウム排出問題」

 さらに、かねて問題視されてきた、中国や韓国の民情対策も今回改めて浮上しています。

 そもそも、日本の今回の処理水放出で出るトリチウムの濃度問題よりも、はるかに多くの汚染物質が中国や韓国の原子力発電所から海洋放出されているという現実があります。

 この点は、風評被害対策の観点から、日本国内だけでなくもっと国際的に主張されなければなりません。「不安だと文句を言っているお前らのほうが、圧倒的に多くの汚染を行っているのをどう考えているのか」と。