3.国内に残っていないロシア地上軍
ワグネル部隊の武装蜂起に似た動きは以前にもあった。
2023年5月に、ロシア義勇軍団や自由ロシア軍団という反ロシア武装勢力(軍)が、ロシア領土のベルゴルド州に進入した。
この時、地上軍による直接阻止行動は、1か月ほど遅れた。
つまり、国境線を守るロシア地上軍戦闘部隊が、ロシア国内にはいなかったということだ。
私は、ロシア軍が、ウクライナの国境から、モスクワまでの主要経路には、地上軍の一部を配置していると思っていた。
侵入部隊を阻止できるようにしておくことは、当然実施しているだろうと考えていた。
だが、前回と今回の武装勢力によるロシア国内への侵攻で、ロシアの国境の防衛やモスクワを防衛する地上軍部隊は配備されていないことが分かった。
つまり、戦闘部隊はウクライナの戦場にほぼ全戦力を投入していることが暴露されたのだ。
軍の教育機関や整備に残している兵器だけが数%あるだけで、これらを除きウクライナに95~98%を投入しているということだ
私は、防衛省・自衛隊の情報分析官であった時に、旧ソ連が日本に侵攻する場合には、旧ソ連の国境を警備するために、3~4割程度の戦闘部隊を国境に張り付けていると分析していた。
また、NATO(北大西洋条約機構)正面にも残すだろうから、地上軍全力の6~7割を抽出して、侵攻してくる可能性があると考えていた。
同僚などとの研究会でも、同様の考えで纏まっていた。
ところが、ウクライナへの侵攻では、当初は6~7割程度だったものの、戦況不利の結果、特に米欧の精密誘導兵器の威力が発揮されたことで、多数の兵器や兵員の損害が出てしまい、戦闘の長期化によって、現在ではほぼ全力を投入している。
それでも不足しているために、新たに兵器を製造し、あるいは保管していたものから使えるものまで改修して投入している。