2.ワグネル進撃阻止のために何をしたのか

 ワグネル部隊が南部軍管区司令部を占拠し、モスクワに向かっている最中、ロシア地上軍は何をしていたのか。

 武装蜂起に関する各種映像を見ると、ロシア地上軍の動きはほぼ皆無であった。

 ただ、攻撃ヘリコプターにワグネル軍の進撃を妨害する動きがあったものの、ロシア地上軍による阻止行動は見えなかった。

 また、モスクワ市内の警備もロシア地上軍ではなく、連邦保安局(治安機関)の隊員と装甲車だけだった。

 ワグネル部隊の地上戦闘能力に対して、ロシア連邦保安局の治安機関では、戦闘になれば勝負は見えている。

 保安局の治安部隊が木っ端微塵にやられてしまう。

 装甲車の銃弾は、戦車の装甲に跳ね返されるし、装甲車は戦車砲1発で吹っ飛んでしまう。

 なぜなら、治安機関には火砲も戦車もなく、全体を統制する指揮通信能力も低いからだ。あるのは、機関銃を搭載している装甲車だけだ。

 装甲車は、戦車に対して歯が立たない。発見され射撃を受ければ、簡単に吹っ飛んでしまう。

 軍事力を有する部隊の武装蜂起を止める地上軍部隊が、モスクワに至る経路に配置されていなかったことで、ウラジーミル・プーチン大統領は、肝を冷やしたに違いない。

 私は、ワグネル部隊がクレムリンに到着すれば、ロシア地上軍がウクライナから引き返してクレムリンの配置につくまでに、戦車砲を数百発は撃ち込むのではないかと予想していた。

 プーチン大統領が厳しく「必ず罰する」「武装蜂起は裏切り」と、鬼の形相でテレビ演説したのも、映像と言葉で脅すことしかワグネル部隊を止められなかったからである。

 唯一止められる地上軍部隊はウクライナにいるので、そこからの来援では間に合わないと感じたのだろう。

当然配備されていなければならない、モスクワまでの地上軍

現実には、当然配備されていなければならない陣地や予備の部隊は全く存在しなかった(出典:筆者作成)

 これらの事態を分析すれば、ロシア国内・モスクワまでの侵攻経路には、武装兵力を止める地上軍が配備されていないこと、また、防御準備もできていないことが判明したことになる。