藤波の強さの理由を、スポーツ紙記者は次のように解説する。

「藤波の強さの理由の一つは53キロ級の選手にしては164センチと身長が高くリーチが長いこと。リーチを生かして相手の足を引っかけるタイミングの取り方は天性のものではないでしょうか。間(ま)の取り方や攻撃のタイミングも上手です。

 まだ19歳というのに試合では相手選手を飲み込むような貫禄すら感じます。余裕があるし、一度のタックルで次の攻撃を考えてフォールまでもっていくんです。相手のバックを取って直ぐにアンクルフォールドを決める流れもとてもスムーズ。東京五輪では志土地(旧姓・向田)真優が同級で金を獲得していますが、6月の全日本選抜選手権ではいま勢いに乗る藤波が志土地を破る可能性は大いにある。優勝すれば世界選手権の出場権を獲得、さらに世界選手権でメダルを獲れればパリ五輪の日本代表に内定します」

 それほど勢いのある藤波は、果たして吉田沙保里を超えるような選手に成長することが出来るのだろうか。

 長年、吉田沙保里をコーチして来た元日本女子レスリングの監督で、現在、至学館大学レスリング部監督を務める栄和人氏に2人についてのプレーについて聞いてみた。栄監督は都合4回の五輪で監督として日本チームのメダルラッシュを茶の間に見せてくれた功労者である。

「近くで藤波、離れて沙保里」

「藤波と沙保里はどちらも天才肌の選手ですが、藤波のほうは得意の低いタックルに行ってつぶされても復帰できる力があります。それと比較して沙保里の場合はつぶされるとなかなか復帰ができず、細かいところの対処処置が苦手な面がありました。

 一方、両者とも間の取り方は上手ですが、特に沙保里は天才とも思えるほどの間で攻撃できるんです。それでいて相手にはタックルをさせずに触らせないテクニックもあります。

 沙保里のタックルは一発で仕留めるのが特徴ですかね。これも相手との間、距離が絶妙なんです。離れていても近くてもどちらでもこの2選手は攻撃ができますが、強いて言うなら『近くで藤波、離れて沙保里』というスタイルの違いがあります。