日本銀行の植田和男総裁には市場との対話が期待される——。メディアでは識者などによるこんなコメントをよく目にする。では中央銀行による「市場との対話」とはどうあるべきものなのか、実際にはどんな対話がなされているのか。米国で銀行破綻が相次ぐなど、世界的に金融政策の舵取りが難しくなる中、日銀は異次元緩和からの「出口」が焦点となっている。植田総裁はどう対話していくことになるのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
【筆者の関連記事】
◎日銀総裁の交代時期に考える、そもそも金融政策・財政政策で何ができるのか
◎ゾンビ企業の退出はどこまで?もう「低失業率と高成長率」の二兎は追えない
完全にはコントロールできない長期金利
日本銀行の植田新総裁は、市場との対話を重視する方針を打ち出している。その中央銀行と金融市場との対話とは、具体的にはどういうものなのだろうか。
将来の政策変更があらかじめ分かるようにすることなのか。そうだとすると、そういう政策運営の方が、金融市場に「ショックと畏怖」を与えるやり方よりも常に効果的と言えるのだろうか。そもそも、金融市場は中央銀行の言うことを鵜呑みにするだろうか。逆に、金融市場は中央銀行に対し、本当にマクロ経済にとって最善と判断した情報を伝えるのだろうか。
中央銀行総裁が、市場との対話を重視すると言えば、多くの人がそれは良いことと思うが、本質的にその対話とはどういうものなのか、あるいはどうあるべきかを考えてみると、このようにいろいろな疑問が湧いてくる。
現在の日本銀行の金融政策は、10年もの国債の流通利回りという長期金利の水準も一定の範囲に誘導しようとしている。この点が、米国の連邦準備理事会(FRB)の金融政策とは違う。
確かについ先頃まで、日本銀行が言う通りに長期金利が決まっていたようにみえていた。しかし、本来、長期金利は中央銀行が完全にコントロールできるものではない。