物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、実質賃金の低下が続いている。厚生労働省が発表した4月の毎月勤労統計(速報)によると、基本給や残業代などをあわせた1人あたりの給与は16カ月連続で増加したものの、物価上昇率を勘案した実質賃金は13カ月連続で前の年を下回った。
世界的なインフレが日本にも波及したことで、アベノミクスが掲げた物価上昇率2%という目標をさらに超えた形となっているが、それで日本経済や国民の生活が良くなったかどうかは議論が分かれるところだ。そもそも、インフレ目標とはどういうもので、2%目標とはどういう意味合いだったのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
インフレの何が問題なのか?
4月の消費者物価総合指数は前年比3.5%の上昇だった。生鮮食品とエネルギーを除くと4.1%の上昇だ。これほどのインフレを経験してみると、デフレから脱却しさえすれば日本経済の調子は良くなるというのは幻想だったようにも思える。
「いやいや、それは賃金の上昇を伴っていないからだ」。これが、ここへ来て出てきた注釈だが、良く考えてみれば、高度成長期の日本でさえ賃金の動きは物価の後追い的側面が大きかった。
それでは、そもそもアベノミクスが目指していた2%のインフレ目標の意味合いは何であったのか。40年ぶりとも言われるインフレの中で、もう一度考えてみることにも意味がありそうだ。
もし、賃金も上がっているのであれば、高インフレでも問題ないのか。
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