5月19日に経団連が発表した春闘での大手企業92社の賃上げ率は3.91%に上った。実に30年ぶりの高水準だという。これに対し、6月支給分から適用される2023年度の公的年金の増額率は2.2%(67歳以下)にとどまる。公的年金は物価スライドをうたっているが、インフレ期には年金額の大きな上昇を抑える仕組みがあるからだ。食品値上げなど物価上昇が続く中、老後のマネープランを考える際はインフレ対策も頭に置いておきたい。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
給付抑える「マクロ経済スライド」が発動
厚生労働省が5月23日に発表した「2022年度毎月勤労統計調査」によると、昨今の物価高を受け、日本の会社員の実質賃金は2年ぶりにマイナスに転じた。減少幅は1.8%となり、消費税率を5%から8%に引き上げた影響を受けた2014年度の2.9%以来の高水準となった。
一方で、今年の春闘では、定期昇給とベースアップを合わせ3.91%(経団連発表の1次集計)と30年ぶりの高い賃上げ率を記録した。年後半はインフレの鈍化も見込まれることから、実質賃金もプラスに復帰する公算が大きいという。
高齢者が受け取る公的年金も3年ぶりの“賃上げ”が実施されたが、中身は現役世代に比べて何とも心もとない。この6月から受け取る2023年度の支給額は、67歳以下が2.2%、68歳以上が1.9%の増額にとどまっている。
年金額は物価や現役世代の賃金の変動に合わせて毎年見直されるが、今年は現役世代の被保険者数の減少と平均余命の伸びを反映して給付を抑える「マクロ経済スライド」と呼ばれる制度が発動。2021年度と2022年度で先送りになっていた調整分と合わせ、本来の増額率を0.6%引き下げた。
公的年金は物価の変動に合わせて支給額を調整する「物価スライド」により実質価値を維持してきたが、年金財政の悪化を受け、2004年に制度維持のためにマクロ経済スライドが導入された。これにより物価と連動した年金支給を受けられるかどうか、いささか雲行きが怪しくなった。