テレビでは「年金生活者の困窮」の企画が

 それでもデフレが続いているうちはマクロ経済スライドが発動されずに済んだのだが、世界的なインフレが日本にも押し寄せてきたことでマクロ経済スライドの“真価”が発揮された格好だ。

 年金制度を維持するためとはいえ、受給者個人にとってはインフレに「負ける」ことは困った事態だ。2%程度の支給増額では消費者物価指数の上昇率(2022年度は平均で3.0%)に到底追いつかない。

 前年の年金とその他の所得の合計が88万1200円以下の高齢者には「年金生活者支援給付金」も支給されているが、月額5140円(年金保険料の納付期間などにより変わる)に過ぎず、元の所得と合わせても生活保護費の水準にも届かない。

 4月以降、テレビのワイドショーでは激安スーパーのセールに客が殺到し、食事を1日1回に抑えるといった「年金生活者の困窮」をテーマにした企画をよく見かける。10円のもやしや100円のキャベツを争うようにしてカゴに入れる姿は身につまされる。

 確かに、足下の物価上昇は凄まじい。帝国データバンクの「食品主要195社価格改定動向調査」を見ると、2023年1~7月に値上げ済み、もしくは今後値上げ予定の食品の累計品目数は2万815品目となり、前年同期(1万686品目)の2倍近くに上っている。

 このインフレは間もなく沈静化するとの見方があるものの、日本には固有の事情もある。世界でも類を見ない「異次元の金融緩和」を未来永劫続けていくわけにはいかない以上、日本銀行は植田和男新総裁の下で出口を模索することになる。