「賃金上昇」を待つ植田・日銀総裁の緩和継続は正しいのか(写真:ロイター/アフロ)

 金融緩和によって低利の資金を潤沢に供給すれば、将来インフレになると人々が期待するため、消費や投資が活発化し、経済が良くなる──。アベノミクスが始まった当時、リフレ派の面々はこう主張したが、低金利が長く続いたことで、低利でしか採算の採れない投資が増加。日本の潜在成長率を押し下げることになった。植田日銀は金融緩和継続による賃金上昇に期待しているが、そこに死角はないのか。ジャーナリストの大崎明子氏が解説する。

(大崎 明子:ジャーナリスト)

金融緩和の継続を決めた植田・日銀総裁

 政府と日本銀行は、相変わらず日本の課題を「デフレ脱却」に置いている。しかし、これは不思議だ。物価そのものは、コロナ禍前からとっくにデフレではない状況になっている。足元で目標の2%を超える大幅な物価上昇が続いていることは言うまでもない(図1)。


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 ところが、日銀の黒田東彦前総裁は退任記者会見で、「わが国は物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなった」としたものの、「2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現までは至らなかった」と敗北宣言。

 そして、植田和男新総裁の下で行われた4月決定会合では、フォワードガイダンスで、2%の「物価安定の目標」の実現について、「賃金の上昇を伴う形で」という文言を追加した。植田総裁は「今後、賃金が物価の上昇に跳ね、さらにまた物価・賃金の上昇につながっていくという循環を、確認できる状況になるのを待ちたい」と強調し、「粘り強く金融緩和を継続していく方針」とした。

 賃金の上がる経済が望ましいことは確かだが、日銀が賃金を直接的に上げることはできない。また、金融緩和によって消費者や企業経営者のインフレ期待を醸成することにも失敗した。

 現在のインフレ期待は、エネルギー価格の上昇やサプライチェーンの分断など外からインフレがもたらされたことによるものだ。むしろ、金融緩和はその長期化によって副作用の方が大きくなっている。その副作用の最大のものは、「潜在成長率の押し下げ」である。