日本銀行の植田和男総裁は、どうイールドカーブ・コントロール(YCC)の弾力化に臨むのか(写真:ロイター/アフロ)

6月の米物価指数の伸び率は市場予想を下回ったが、ここまでのインフレは世界経済にとって計算外であった。「インフレは一時的なもの」という政策当局の見立てが外れたのはなぜだろうか。需要の高まりに対してなかなか供給が回復し反応しなかったこと、グルーバリズムの変質など、いくつか要因が考えられるが、中央銀行は的確に対応できるのだろうか。強力な金融緩和の維持によって、インフレ圧力が円安となって現れている日本はどう動くべきか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

各国の中央銀行は金融引き締めでインフレに対応しているが

 最近、英語の文献で「インフレーション・ダイナミクス」という言葉にしばしば出会う。物価水準の変動が、どういう力によって起こっているのかという意味だろう。これが、実はかなり難しい問題だと改めて認識されているようだ。

 日本でも、インフレ/デフレは貨幣的現象だとか、あるいは需要と供給のギャップによって決まるとか、さらには最近のインフレは海外要因によるものだとか、いろいろに言われる。最近の米国のインフレについて、大型の財政支出に起因するところが大きいという見方もある。

 このようにインフレ/デフレは、様々な要因に影響されるようであり、それぞれの論者がそのストーリーに応じて原因の設定を使い分けている感がある。

 現在、欧米先進国でなかなか低下しないインフレ圧力に対し、各国中央銀行は金融引き締めの強化により対応している。もし、そのインフレの原因について諸説あるのだとすれば、どこまで政策金利を上げるかを、いったいどう判断するのだろうか。

 他方、日本銀行は2%のインフレ目標が持続的に達成できる状況ではまだないと言っているが、今後、政策のあり方が変わるとすれば、これからのインフレについてどのような説明をするのだろうか。