一時は4%を上回った日本のインフレ率(消費者物価指数・総合指数)も、電気代等のマイナス寄与が手伝い、若干、落ち着きを取り戻している。しかし、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は上昇しているため、インフレ基調に変化はないとの声も大きい。訪日外国人客数も増え、百貨店売上高も上振れしているだけに、日本経済は、コロナショックからの回復路線を歩んでいると言えよう。
一方、2022年に高進したインフレ率は、いずれ修正される局面も来ることから、冷静になって将来の行く末を見晴らす必要もありそうだ。足元の変化にばかり目を奪われるのではなく、一歩下がって、長い時間軸で現在を考えると見えてくることもある。そこで、本稿では少し視点を長くして、現在の物価の位置づけを再確認しておきたい。
(平山 賢一:東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)
13世紀以降の英国物価は何を示すか
できるだけ長期で物価を見ようとした場合には、わが国で入手可能なデータには限りがある。そこで、歴史ある英国のイングランド銀行(Bank of England)が、近年まとめた長期統計データ(A millennium of macroeconomic data for the UK)を活用して、13世紀以降の英国物価の流れを確認してみよう。その際、経済の長期トレンドと関連が深いとされる総人口も含めて整理したい。
そこまで長いデータで振り返ることもないのではないかとの声も聞こえてくるが、世界の政治経済の状況に非連続面が見え隠れしているため、風呂敷を広げてみるのも必要かもしれない。数百年単位では、総人口やその変化率である総人口増加率と経済状況を関連付けて考えやすいからだ。
十年単位では、特定の国の歴史的経緯を見た場合には、総人口増加率と経済成長率やインフレ率との関係は、必ずしも鮮明に認められないケースが多いのも事実。対象期間をより長期にすることで、見えてくる実像がある。
まず、図1(縦軸は変化率を鮮明に示すため対数目盛になっている)でイングランドの総人口の大まかな推移と、物価の動きを見てみよう。ここでは、取得できるデータに限りがあり、総人口のデータは、英国ではなくイングランドのみになっている。そのため、必ずしも厳密な比較とは言えないが、両者を簡単に比べるために、1300年を1.0として指数化している。
1300年のイングランドの総人口は500万人弱であり、現在は6000万人弱であるため、この図の右端の指数が示すように、700年超の期間で約12倍になっているのがわかる。
図1を見て気になるのは、14世紀半ばに大幅に総人口が減少している点であろう。