春季攻勢のカギは、ロシア軍がキーウや南部ヘルソンのドニプロ川右岸、北東部ハルキウで撤退に追い込まれたのと同じ状況をウクライナ軍が作り出せるかにかかっている。ウクライナ軍がザポリージャから南下しアゾフ海に到達してロシア本土とクリミア半島を結ぶ「陸の回廊」を分断、クリミア大橋も破壊してクリミアを孤立させることを狙っているのは明白だ。

スヴァトヴェからザポリージャを結ぶ孤はウクライナ軍にとって有利に働く

 ロシア軍は前線1450キロメートルのうち800キロメートルに塹壕、対戦車溝、「竜の歯(装甲車を妨げる鉄筋コンクリートの障害物)」、機関銃を設置したコンクリート陣地、バンカーという何重もの防御線を構築してウクライナ軍を待ち構える。しかしスヴァトヴェからクレミンナ、バフムート、ザポリージャを結ぶ孤はウクライナ軍にとって有利に働く。

「ウクライナ軍は孤の内側にいるため、兵力や物資、装備などを孤の端から端まで容易に移動させることができる」とマーティン氏は指摘する。これに対して孤の外側で防御に当たるロシア軍はウクライナ軍の陽動作戦に振り回される。マーティン氏はウクライナ軍には地の利を活かす3つの選択肢があると分析する。

(1)ヘルソンでのドニプロ川渡河作戦
 ドニプロ川が天然の防御ラインを形成しているため、ロシア軍の防御は疎かになっている。しかし渡河作戦は非常に大きなリスクを伴う。昨年、渡河作戦を実行したロシア軍は待ち伏せされて大損害を被った。ウクライナ軍にとって、おそらく最も困難な選択肢となる。

(2)ハルキウから侵攻
 スヴァトヴェやクレミンナ付近でロシア軍の戦線を切り崩す。ドンバス地方への主要な鉄道が前線のすぐ後ろを通っているため、ロシア軍の補給線を断ち切るという大きな収穫がある。しかしロシア軍の防御は比較的強固な上、「陸の回廊」を分断するアゾフ海まで遠い。