(山下 和之:住宅ジャーナリスト)
2023年4月、長く異次元の金融緩和を続けてきた日本銀行の黒田東彦総裁が退任。植田和男新総裁のもと、いずれ金融緩和から金融引き締めに転じるのではないかという観測が強まっている。
そのため、固定金利型の住宅ローン金利が上がるなかでも超低金利を続けてきた変動金利型も、いずれ上がるのではないかという見方が出てきた。そろそろ変動より固定のほうが安心なのではないかという人が増えているようだ。
住宅ローン利用者の7割前後が「変動金利」を利用
住宅ローンの金利タイプには変動金利型と固定金利型がある。変動金利型住宅ローンの金利は短期金利に連動し、固定金利型は長期金利に連動する。
世界情勢の不安定化などによって世界的に長期金利が上がり、わが国でも長期金利に連動する固定金利型の住宅ローン金利が上昇している。
固定金利型の代表格といえば、住宅金融支援機構と民間機関が提携して実施されている住宅ローンの「フラット35」だが、返済期間35年の金利をみると、2021年9月には1.28%だったのが、2023年3月には1.96%まで上がっている。2023年4月には1.76%に下がったものの、上昇トレンドに変わりはない。
この金利上昇により、住宅購入意欲が阻害されるのを懸念した岸田政権は、「異次元の少子化対策」を最重要政策課題のひとつに掲げ、子育て世帯や若者世帯向けのフラット35の金利引き下げ方針を打ち出したほどだ。
それに対して、変動金利型の金利は上がっていない。異次元の金融緩和策のなかで、短期金利の指標である短期プライムレートは2009年9月から1.475%が続き、2023年4月現在も変化はない。変動金利型の住宅ローン金利は、多くの金融機関で「短期プライムレート+1.0%」としており、店頭表示の基準金利は2.475%に据え置かれた状態が10年以上続いているのだ。
実際の金利は、金融機関の金利引き下げ競争によって、2023年4月現在、0.3%台、0.4%台で利用できるところが多い。このため、変動金利型と固定金利型の金利差が拡大し、金利が低く、返済額が少なくて済む変動金利型の人気が高まってきた。金利によって【表1】のような返済額の差があるのだから、それも当然のことだろう。
たとえば、変動金利型に多い0.4%だと、借入額4000万円、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は10万円強だが、固定金利型に多い1.6%だと12万円以上になり、同じ借入額でも月額2万円以上もの差があるのだ。
住宅金融支援機構が住宅ローンを利用してマイホームを取得した人を対象に行っている調査によると、2022年4月調査では変動金利型が73.9%で、同年10月調査では69.9%だった。住宅ローン利用者のうち、7割前後は変動金利型を利用しているわけだ。