2023年のダボス会議に出席する黒田東彦・日本銀行総裁。債券市場の参加者は、10年にわたる異次元緩和の次に訪れる変化に直面する(写真:AP/アフロ)

(平山 賢一:東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)

多様性に乏しい「サラリーマン市場」

 わが国の短期金融市場や債券市場には、一種独特の雰囲気がある。

 株式市場とも、為替市場とも異質な空気が流れ、金利予測を行う上ではこの「空気感」を常に意識しなければならない。市場参加者のほとんどが金融機関等のディーラーやファンドマネジャーであり、個人投資家や海外投資家の参加が少なかったからである。

 近年では、日本銀行の政策変化を見越して、海外ヘッジファンドが参加するようになっているものの、「サラリーマン市場」とも揶揄される期間が長かった。市場参加者の多様性が乏しいだけに、小さなムラ社会といってもよいだろう。

 似たようなバックグラウンドを持つ国内市場参加者が多かったため、その相場観が一方向に傾きやすいという特性が指摘されてきた。多くの市場参加者の抱く相場観が似通っているため、この均一な相場観とは異なる材料がいったん発表されると、一気に価格(利回り)が変動してきたのである。

 この材料とは、市場を変動させるような政治的変動や、指標・金融政策の発表などであり、想定外の出来事が発生すると慌てふためいた市場参加者が、同じように反応するのを繰り返してきた。

 特に想定外の金融政策変更が発表されると、筆者を含め債券市場参加者やメディアは、面目を潰された悔しさから、市場とのコミュニケーションを問題にして、日本銀行を批判するケースが散見された。2022年12月のYCC(イールドカーブ・コントロール)の幅拡大も寝耳に水だっただけに、多くの市場参加者の反発を誘った。

 今回はこの特殊なムラ社会である、日本の債券市場について、その歴史的な特性を整理してみたい。2013年以降続いた日本銀行の「失われた10年」も幕を下ろし、新たな時代を迎えるにあたって、債券市場の実態を確認しておくことは意味があるのではないか。住宅ローンの固定金利も左右されるため、多くの人々の生活にも直結するからである。