「あそこでは絶対に死にたくない」
もともと夫婦で入居していたその女性は2年ほど前に施設で夫を亡くしていた。医療従事者だった夫は介護棟での対応を嘆き、「あそこでは絶対に死にたくない」と女性の過ごす居室に戻って息を引き取ったという。
人手不足のためか、マニュアルやサポート体制が不十分なためか、原因ははっきりわからないが、結果として、要介護者が望むようなサービスは提供できていなかったようだ。
女性の夫のような医療従事者なら、なおさらその“質”が気になったことだろう。ましてや、そこは年金程度の金額で入れる特別養護老人ホームではない。70代で入居したとすれば、夫だけでも数千万円単位のお金を施設に落としているはずだ。
「だから、あなたのお母様は今出ていって正解だったかもしれないわよ」
そんな女性の言葉に、Aさんは何とも言えない気持ちになったという。
これは決して対岸の火事ではない。