ある日突然いなくなる「都落ち」

 よくよく聞いてみると、コロナ禍の影響で家業が傾いたり、子供が大幅減収になったりして月払いの利用料が払えなくなり、やむなく他の施設に移っていったのだという。

 入居者仲間ではそれを「都落ち」と呼んでいた。

「都落ちする人は本当に、ある日突然いなくなるの。気位の高い人ばかりだから、人にあれこれ言われたくないんでしょうね」と母親は寂しそうに話してくれた。

 とはいうものの、当人は内緒にしたくても、この手の話が瞬く間に広がってしまうのがこうした施設の常だ。母親が最もショックだったのは、特に親しかった女性が都落ちした時だという。

 そして昨冬、今度はAさんの母親がとんでもない理不尽な事態に遭遇することになった。

 母親は以前、腸の病気を患ったことがあり、気をつけていたのだが、突然腸閉塞と腎不全を併発してしまう。一時は生命も危ぶまれるような状態に陥ったが、緊急搬送された大病院で応急処置を受け、一命を取り留める。

 その際、栄養の吸収状態が悪いからと医師の勧めで高カロリー輸液を投与するためにCVポート(皮下埋め込み型中心静脈アクセスポート)を装着することになった。

 これがその後のトラブルの引き金となる。