農村の宴に欠かせなかった「犬肉」と「蚕」
取材で訪れたはずが、企業関係者でもないのに日本人というだけで、この寒村では大歓迎された。そこで一緒に食事をしようと誘われた。話を聞くにも絶好の機会だ。それで案内されたのが、村で唯一という料理店だった。
そこでは丸テーブルに皿や箸が並んで宴席の準備ができていた。そして私に調理場に行くように言った。訳も分からず、勢いに押されて調理場に入ったところで、同行の通訳が教えてくれた。
「いまここでは、あなたが主賓だ。主賓は自分の食べたいものを選ぶ」
それで調理場に放り込まれたのだ。それが中国の(あるいは、この地方の)しきたりなのだという。それで調理場には、私と通訳がふたりだけだった。「ただし」と通訳は続けた。
「あなたは食べたいものを選ぶことができるが、同時に他の人たちを喜ばせるものを選ばなければならない。せっかくのご馳走をみんなで食べる機会なのだから、間違ってはいけない」
つまり、遠来の客である私を歓迎する一方で、私を持ち上げて全員にご馳走を振る舞わせる。そうやって機会を選んで、村のみんなに分け与える。
とはいえ、異国の地の風習に従って忖度しようにも、何を選んでいいのかわからない。そこで通訳に救いを求めると、「これは絶対に選んだ方がいい」というものと、「これはみんなが喜ぶ」というものがあった。それが、犬の肉と蚕だった。