日本から距離が近いことに加え、日本向けの野菜を栽培するのにも適した環境だった。食品加工に先駆けて、冷凍野菜が日本に送られてきていた。
日本式に塗り替えられた現地の農業
ところが、2002年に中国産冷凍ホウレンソウから基準値を上回る残留農薬が検出されて問題になった。
そもそも、それまでの中国には農薬という概念がなかった。国外から入ってきた農薬は「魔法の薬」と称していて、農夫が畑を素足で歩きながら素手で農薬を撒いていたほどだ。
しかし、日本の消費者は厳しい。食品メーカーも信用を失ったのでは商売にならない。そこで、収穫された野菜を現地で買い取るのではなく、農家と契約して種子を提供し、決められた肥料と農薬で栽培した上で、基準に合格した作物だけを納品させる方式に切り替えた。これを現地で食品に加工して日本に送る。
「俺はもう農家じゃないよ、サラリーマンだよ」
当時、日本の食品メーカーと契約した中国の農家が、そう呟いていたのが印象的だった。