そんなやりとりが続くので、建築関係者はたぶん前半はあまり笑えない。コメディー作品とはいえ、ちょっと柳沢がかわいそう過ぎる……。と思い始めた中盤辺りから、流れが変わる。さすがは三谷幸喜。ここから見事なハッピーエンドへと向かっていく。

 ある出来事以降、2人は意地を張りつつも力を合わせるようになり、直介と民子のマイホームは完成する。柳沢は、「この家はどこもかしこも妥協だらけだ」と苦笑いしながら言う。

 お披露目会に集まった人たちは、直介と民子はもちろんこと、関わった職人たちもみんな幸せそう。現場で柳沢と対立していた若い職人は、「オレは先生のことは大嫌いだけど、この家は好きだ」と言う。

『みんなのいえ』は、建築家が「妥協のなかで表現の道を探る」ことを称える極めて珍しい作品。コメディー映画としてどうなのかはさておき、“建築映画”あるいは“家づくり映画”としては間違いなく傑作である。

普遍的な建築の真理がたっぷり、映画『テルマエ・ロマエ』(2012年)

 4本目は、映画『テルマエ・ロマエ』だ。今回取り上げる5本の中で、これが一番「建築家」と結びつきにくいのではないか。

 阿部寛が演じる主人公、ルシウス・モデストゥスは、古代ローマ帝国の浴場専門の建築家(テルマエ技師)。建築家として“壁”にぶち当たっていたルシウスは、ある日、現代日本にタイムスリップしてしまう。漫画家志望の真実(上戸彩)と出会い、日本の洗練された風呂文化に衝撃を受ける。

 ルシウスはタイムスリップを繰り返すなかで、古代ローマで斬新な浴場を次々と実現。時の皇帝ハドリアヌス(市村正親)からも信頼を寄せられるようになる。そこから始まる新たな苦悩とその克服が物語の核心だ。

 この映画は名セリフの宝庫で、いろいろ挙げたいものがあるのだが、あえてここでは皇帝ハドリアヌスのこのセリフを挙げたい。

「テルマエとローマの在り方は似ている。広ければいいというものではない。派手であればいいというものでもない。安らげる場を与えてこそ、人々の幸福につながる」

 映画のエンディング近くで、皇帝がルシウスに向かって言う言葉だ。ハドリアヌスは実在した第14代ローマ皇帝で、今日まで残るパンテオン神殿の再建を行ったほか、多くの造営事業を実行した都市プランナーでもある。「発注者の意識の高さが優れた建築を生む」という真理を突いた名セリフだ。

バリアは心の中にある、ドラマ『パーフェクトワールド』(2019年)

 最後の5本目は、ドラマ『パーフェクトワールド』。これは中高年の方にはピンと来ないタイトルかもしれないが、若い人には浸透率の高い作品だと思う。原作は、有賀リエによる人気漫画(講談社「Kiss」掲載)。車いすの若き建築家を主役に据えたラブストーリーだ。関西テレビが制作し、2019年にフジテレビ系列の火曜ドラマとして放映された。

 この物語は、ドラマの前年の2018年に先行して映画化されている。筆者は映画版も見た。約2時間の映画では、やはり盛り込めるエピソードが限られる。車いす建築家のリアリティーを見たいならば、圧倒的にドラマ版がお薦めだ。