スター建築家の弱さをえぐるドラマ『協奏曲』(1996年)
2本目は、ドラマ『協奏曲』だ。1996年10月~12月に、TBSで金曜22時から放送された連続ドラマ。田村正和(当時53歳)、木村拓哉(当時24歳)、宮沢りえ(当時23歳)という豪華キャストの共演、歳の差30歳のイケメン2人による恋愛バトルが話題になった。
三角関係がグダグダ過ぎて途中でイラっとさえしてくるのだが、「建築家師弟のドラマ」としては、かなりのリアリティーを感じさせる。
例えば、キムタク演じる貴倉翔(たかくらかける)のこのセリフ(第2話)。まだ建築家として芽が出ていない時期に、師匠のスター建築家、海老沢耕介(田村正和)に言うセリフだ。
「皮肉ですよね。設計図描きがてめえの人生うまく設計できないって」
バツイチの耕介(仕事にのめり込み過ぎて妻に出ていかれた過去を持つ)は、小声でこう返す。
「みんなそうだよ、みんな……」
建築家に求められるオールマイティーさに反して、私生活のままならさを師弟で共有し合うこのシーン。日本ではこの頃から建築家の“弱さ”が物語のポイントになっていく。
翔がようやく完成させたデビュー作の教会は、その年の建築賞で、耕介が設計した住宅を破って大賞を取る。ドラマの終盤は、飛ぶ鳥を落とす勢いの翔と、次第に仕事がなくなる耕介という、序盤と逆の状況が描かれる。クリエイターならではの弱さをえぐるような物語だ。
宮沢りえをめぐる三角関係のグダグダの印象だけでこのドラマが語られるのはもったいない。これから見る人は、ぜひ建築家師弟の葛藤のドラマという視点で見てほしい。
建築家の本質を「妥協」に見た映画『みんなのいえ』(2001年)
3本目は、映画『みんなのいえ』だ。三谷幸喜がデビュー作の『ラヂオの時間』に続いて撮った2作目の監督作品。三谷の得意とする群像劇で、主役級は2人。唐沢寿明演じるインテリアデザイナーの柳沢英寿と、田中邦衛が演じる大工棟梁、岩田長一郎だ。
放送作家の飯島直介(田中直樹)と美術教師の民子(八木亜希子)夫妻は、念願のマイホームの設計を、民子の美大時代の同級生であるインテリアデザイナーの柳沢英寿に依頼する。柳沢は、店舗の内装設計や家具のデザイン・修復が専門で、家の設計は初めて。民子の父は、大工棟梁の岩田長一郎。その家の施工は、親孝行も兼ねて長一郎に任せることにする。そこから始まる設計者×大工棟梁の確執や、それに振り回される人々を描くコメディーだ。
序盤は、2人の溝が開いていく過程に、心がヒリヒリする。例えば、柳沢が描いた完成予想図を見て長一郎が言うセリフ。
「これはあなたが? さすが美術大学出の人は違うなあ…」
褒めているのではない。プロならば、ひと目見て敷地の高さ制限を超えていることが分かるのだ。「申し訳ないが、もう一度考えてきてもらえますかねえ」
最初は衝突を避けたものの、以後、長一郎は柳沢のことを、「大先生」と皮肉を込めて呼ぶようになる。そして、徐々に歯に衣着せぬやりとりになっていく。
「玄関ドアはアメリカでは内開きが多い」と主張する柳沢に、長一郎が言うセリフ。
「ここはどこだよ、ここは日本じゃねえのかよ」