イラスト:宮沢洋(以下同)

(宮沢 洋:BUNGA NET編集長、編集者、画文家)

 建築物や住宅を設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。憧れ? 独りよがり? 日常とは隔絶した存在?──そんな前振りで2年半ほどあるWebサイトで連載してきたコラムが書籍になった。日経BP日本経済新聞出版から2023年3月13日に発売される書籍『シネドラ建築探訪』だ。文章とイラストをいずれも筆者(宮沢洋)が担当した。

「シネドラ」というのは筆者の考えた略語で、「シネマ(映画)&テレビドラマ」のことだ。元・建築雑誌編集長で現在は「画文家」を名乗る筆者が、名セリフのイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづったもの。住宅関連情報のサイト「LIFULL HOME’S PRESS」において2020年から連載した原稿30本をベースに、コラム用の短文20本を新たに執筆して構成した。

 本書で紹介した映画・ドラマの中には、誰もが知る有名な作品が少なくない(目次はこの記事の最後を参照)。だが、本書をパラパラとめくってみると、「えっ、どこに建築家(あるいは建築物)が出ていたの?」と意外に思う作品が多いと思う。

 おそらくあまり意識せずに見ているし、公開後にそれらが「建築」という視点で語られることも少ない。しかし、どの作品も建築家や建築物をがっつり描いている。今回、無理やり取り上げたものは1つもない。なので、書籍になった30本を通しで読むと、時代による建築家像の違いや作り手の着眼点(面白がり方)の違いが見えてくる。

 ここでは、誰もが知る有名作品5本の名セリフを描いたイラストでその面白さの一端を知っていただきたい。

※配信先で写真が表示されない場合は、JBpressのサイトでご覧ください。

耐震偽装事件にも当てはまる『タワーリング・インフェルノ』(1974年)

 制作年順に行こう。1本目は、映画『タワーリング・インフェルノ』だ。米国では1974年に、日本では1975年に公開された。パニック映画の最高峰ともいわれる名作である。

 改めて見返してみると、その「ありそう度」に驚く。この映画を象徴する名セリフはこれだろう。

「コストを削るなら階数を削れ」
(記事冒頭のイラストを参照)

 サンフランシスコに建設された世界一高い超高層ビルの展望フロア(135階)で竣工記念パーティーが開かれている最中に、大規模火災が起こる。このセリフは建築家役のポール・ニューマンが、ビルオーナー(ウィリアム・ホールデン)に向かって言う言葉だ。

 映画中で詳しい説明はないが、ビルオーナーは施工会社であるらしい。大手建設会社が自社の施工で世界一高いビルを建てたという設定。火災の原因は、コストダウンのために、設計仕様と異なる安い配線コードを使ったことだった。竣工パーティーで、全館の照明を一斉に点灯したことにより、配線に負荷がかかり、漏電して発火する。手抜き工事のためか、スプリンクラーも作動しない。

 実際に、漏電によるビル火災は世界のあちこちで起こっており、その原因が「コストダウン」と「手抜き工事」というのもリアリティーがある。「コストを削るなら階数を削れ」。いつの時代も、建築事故のほとんどは人災だ。

 日本では幸いにして超高層ビル火災は起こっていないが、この言葉は日本で2005年に耐震偽装事件(構造計算書偽装問題)が発覚したとき、マンション所有者がデベロッパーに対して思ったことと同じだろう。

 圧倒的にオールマイティーで責任感も強い建築家役のポール・ニューマンは、まさに日常のヒーロー。超高層ビルの設計をする人には必ず見ることを義務付けてほしい映画だ。これから超高層マンションに住もうという人も、一度見てみるとよいだろう。避難訓練の重要性が分かる。