米メディアは大騒ぎ、諜報機関は極めて冷静
3日間にわたって米国(特に米メディアと反中国議員たち)を騒然とさせた中国の偵察気球は2月4日午後(米東部時間)、南部サウスカロライナ州沖合の大西洋上で米軍の最新鋭ステルス戦闘機「F-22」搭載の空対空ミサイル「サイドワインダー」によって撃ち落とされた。
中国は「過剰反応だ」と報復措置を仄めかしている。
(もっとも米軍は中国上空には偵察気球など飛行させていないから、報復は偵察衛星ということになるのだが・・・)
米メディアは連日、上空を飛行する(バス3台分の大きさの)白い気球を追跡した。
撃ち落された瞬間を肉眼で見たサウスカロライナ州の住民は歓声を上げて喜んだ。まるで中国機を撃ち落としたかのように、だ。
偵察気球は高度約1万8000メートルを飛行していた。民間航空機の飛行経路は約1万メートル付近のため、安全上は問題ないという。
領空の定義は諸説あるが、国際通念では、高度22.2キロ(12カイリ)までが一国の領空とされている。
あと4200メートル高く飛行していれば米国の領空侵犯とはみなされなかったかもしれない。
ジョー・バイデン大統領は、偵察気球に関する報告を受けた2月1日、直ちに撃墜を指示したが、米国防総省は地上の人々の安全のため、気球が海上に出るのを待って実行した。
撃ち落とされた気球の破片が周辺空海域に飛び散り、住民に被害を与えぬように、米連邦航空局(FAA)は安全確保のため、近くの3空港の発着を一時停止したほか、周辺空域も閉鎖した。
落下物は周辺海域に約11キロの範囲で広がった模様だ。米海軍の艦艇と米沿岸警備隊の船舶が派遣され、破片の回収を進めている。
米軍、情報機関、米連邦捜査局(FBI)は防諜(ぼうちょう)の観点から件の気球がどのような装置を装備していたか、どのような安全保障上の情報データを取集していたかを詳しく分析する。
共和党反中派が「即時撃墜せよ」と騒ぎ立てる中、ドナルド・トランプ前政権の国務長官として対中外交を統括してきたマイク・ポンペオ氏は、こうバイデン氏に注文を付けた。
「撃ち落とさず『生け捕り』にせよ。気球を傷つけずに捕獲して搭載されている計器や取集していたデータすべて入手せよ」
同氏は、偵察気球侵犯が報じられると、寸発を入れずに「撃ち落とせ」と叫んだドナルド・トランプ前大統領とは対照的な反応を見せた。
さすがは、米陸軍士官学校卒、ハーバード法科大学院卒、軍歴(陸軍大佐)、下院議員、米中央情報局(CIA)長官、国務長官という経歴からくるインテリジェンスの何かを知る同氏の経験と叡智のなせる発言だ。
同氏は2024年の共和党大統領候補指名を虎視眈々と狙っている。