バイデン大統領の機密情報秘匿問題を追及する特別検察官に任命されたロバート・ハー氏(2019年11月資料写真、写真:ロイター/アフロ)

正副大統領経験者全員に提出命令下る

 おとぎ話「花咲爺」の愛犬の「ここ掘れワンワン」ではないが、米連邦捜査局(FBI)が捜査すればするほど歴代正副大統領領経験者の私邸や事務所から国家機密文書がざっくざっく出てくる。

 世界一厳しい国家機密漏洩防止策をとってきたはずの米国で、大統領や副大統領だった者が職を去った後、機密文書を持ち出し、事務所や私邸の押し入れや倉庫に放置していたとは、開いた口が塞がらない。

 その狼藉者が現職大統領であり、2024年の大統領選にぬけぬけと立候補表明しているとは、世は末である。

「法の番人」のメリック・ガーランド司法長官は、自分のボス、ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ第45代大統領を、機密文書秘匿・漏洩で訴追するかどうかにつき、調査・勧告する特別検察官2人を任命した。

 現職大統領に検察の手が入るのは、リチャード・ニクソン第37代大統領以来、50年ぶりだ。

(特別検察官には司法省ナンバー3のアーチビショップ・コックス訴訟長官が任命されたが、ニクソン氏が同氏を解任した。後任には、レオン・ジャウォスキー氏が就任した)

https://www.washingtonpost.com/wp-srv/national/longterm/watergate/articles/051973-1.htm

 そんなに重大な事態に陥っているのに米国民はどこか冷めている。

 最新の世論調査では70%が関心を示しているものの、バイデン氏の行為は「トランプ氏より悪質だ」と答えたのは15%、「トランプ氏の方が悪質だ」は28%。「分からない」は33%だった。「2人とも同罪だ」との回答は40%だった。

https://fivethirtyeight.com/features/bidens-approval-rating-is-up-will-his-misplaced-classified-documents-bring-it-down/

 今後、「両氏が秘匿していた機密文書が中国の手に渡っていた」といった情報が出てくれば、米世論は一変するに違いない。

 もっとも米情報機関に近い関係筋はこう指摘する。

「しょせん機密情報の中身そのものが機密なのだから、それが事実であっても米情報機関は否定も肯定もしないだろう。訴追しても公判内容は明かされる可能性はないだろう」

 米国民は、このドラマの結末を薄々知っていることからくる「冷ややかさ」なのか。英メディアの在米特派員は、こう指摘する。

「もう一つ、米世論を読み解けば、こうではないのか」

「ついこの間まで大統領だった人物が、300点以上の機密文書を全く罪悪感なしに私邸に持ち帰り、国立公文書館と司法省の執拗な要求にも応ぜず、最後はFBIの強制捜索が入った」

「まるでサスペンス・ドラマのような『生々しい現実』を目のあたりにした米国民は、そのあと次々と暴露される現実に感覚が完全にマヒしてしまったのかもしれない」

「まさに『事実は小説より奇なり』(Truth is stranger than fiction)*1だよ」

*1=英国のロマン派詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン男爵の風刺詩「ドン・ジュアン」に出てくる名言。