米独両首脳の胸の内は(写真は2022年6月26日、ドイツで開かれたG7首脳会議で、写真:AP/アフロ)

コスト4億ドルは既存の「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ」から

 米国、ドイツ両政府は1月25日、それぞれの主力戦車、「エイブラムス」と「レオパルト2」をウクライナに供与すると発表した。

 米独両国ともに対ロ政策や国内事情から戦車の供与に慎重姿勢を崩さなかった。

参考:米独が主力戦車をウクライナに供与できない本当の理由~2月以降の大攻勢に向けて安堵の色隠さないプーチン、JBpress(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73623

 しかし、最終的に北大西洋条約機構(NATO)の分裂を避けるという大義名分で辛うじて解決した。

 苦渋の選択をしたジョー・バイデン米大統領は、25日、ホワイトハウスで演説してこう述べた。

「米国と欧州は完全に団結している。今回の発表では同盟国と緊密に連携している」

「ウラジーミル・プーチン大統領は、欧米はウクライナ支援に辟易としており、NATOは崩壊寸前だと考えているようだが、われわれは完全かつ徹底した全面的な団結に合意している」

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2023/01/25/remarks-by-president-biden-on-continued-support-for-ukraine/

 さらにバイデン氏はこう付け加えた。

「供与する武器は、(ロシアによる)春季攻勢が近づく中、ウクライナ軍が領土を守り、侵略されている領土を奪還するのに必要な防御力を強化するものだ」

「これはあくまでも防衛のための武器であって、攻撃的な兵器ではない」

(もっとも軍事評論家のニック・ウォルシュ氏は、エイブラムスは大砲やロケット砲と同じように陸上戦闘でロシア兵を攻撃する兵器であり、防御兵器ではなく攻撃兵器だと指摘している)

https://edition.cnn.com/2023/01/25/europe/western-tanks-ukraine-russia-intl-cmd/index.html

 それにしてもバイデン氏は、これ以上の対ウクライナ軍事支援に躊躇する米世論、米議会共和党の声を無視して、なぜ踏み切ったのか。

 一つにはNATOの団結を前面に押し出したことがある。

 しかも、今回はポーランドなどこれまで米保守派が防衛分担インバランスで批判してきたNATO加盟国が「レオパルト2」供与でイニシアチブをとり、さらにはスウェーデンなどもドイツに圧力をかけたことが大きい。

 追加軍事支援に批判的だった下院の共和党軍事外交通も1月18日には、米独首脳に事態の早期収拾を訴えた。

 マイケル・マコール下院外交委員長(テキサス州選出)とマイク・ロジャーズ軍事委員長(アラバマ州選出)は共同声明を発表。

「バイデン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相は、ロシアを撃退するために必要不可欠な兵器であるレオパルト2、地対地戦術ミサイル『MGM-140』、その他の精密な長距離弾道弾を遅延することなく供与すべきだ」

 バイデン氏に「エイブラムスを供与せよ」とは、ストレートには要求していないが、ドイツが供与の前提にエイブラムス供与を前提条件にしているわけだから、エイブラムス供与には賛成ということだろう。

https://finance.yahoo.com/news/two-us-house-republicans-urge-041056956.html?guccounter=1

 また追加支援に難色を示している共和党に対しては、バイデン氏はエイブラムスのコスト4億ドルはすでに議会の承認を得ている「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ」(Ukraine Security Assistance Initiative)*1から出すことも明言した。

https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/3272866/biden-administration-announces-additional-security-assistance-for-ukraine/

*1https://en.wikipedia.org/wiki/Ukraine_Security_Assistance_Initiative

 他方、ロシアの主標的にされるのだけは避けたかったショルツ独首相は議会でこう述べた。

「われわれは、ウクライナに必要な支援を行うと同時に、ロシアとNATOの戦争に発展しないようにしなければならない」

 ドイツ国民の半数が「レオパルト2」をウクライナに供与することには反対している。自らが党首の中道左派「社会民主党」の党是にも合致しない今回の決定は、バイデン氏同様苦渋の選択だった。

 だがNATO結束という大義名分の前には選ばざるを得ない決断だった。

 ロシアは案の定、「ドイツは欧州の偽善者であり、ナチのクソたれだ」(ロシアテレビの人気コメンテイーター、ウラジーミル・ソロビヨフ氏)「条理に反する決定だ」(デミトリ―・ペスコフ露大統領府報道官)と反発している。

 ロシア軍は1月26日にはウクライナの首都キーウ(キエフ)など各地を空爆、死者11人が出ている。

 レオパルト2の供与決定後、ロシアによる初の軍事行動だ。報復シグナルだろう。