この時のBYD最高幹部へのインタビューで、「トヨタ」という名前は、もう一回出てきた。

「電気自動車を世に問うていった時のわれわれの心境は、1965年のトヨタと同じ心境でした。当時のトヨタは、自分たちはアメリカ市場で通用するのかという不安を抱えたまま、乗り込んで行きました。実際、アメリカ人は当初、日本の自動車メーカーに疑心暗鬼でしたが、やがて受け入れました。同様に、わが社の電気自動車も、やがて世界が受け入れてくれる日がくると信じています」

 結論を言えば、BYDは「賭け」に勝ったのである。周知のように、世界の自動車産業は、脱炭素の波を受けて、いまや一斉にEVに向かいつつあるからだ。

トヨタと合弁会社、ラブコールを送ったのは…

 1月30日、BYDは驚愕の業績を発表した。昨年の売上高は、4200億元(約8兆1000億円)を超え、純利益は160億元(約3100億円)に上る見込みだという。純利益は前年比4倍以上だ。

 BYDの発表によれば、昨年の販売台数は186万8500台。うちEVを中心とした新エネルギー車の販売台数は185万7400台(前年比312%)で、米テスラを抜いて世界一のEVメーカーに躍り出た(プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を含んだ統計)。

 実はBYDは、2年前の上海モーターショーで、トヨタとの合弁会社設立を発表している。この時、一部の日本メディアは、世界一の自動車メーカーであるトヨタが、中国側に頼まれて中国メーカーとの合弁会社を設立したかのように報道していた。だが中国の自動車業界に詳しい中国大手紙の知人の中国人記者は、私に次のように述べた。

「今回のマッチングは、BYDよりもトヨタ側からのラブコールによって成立した。トヨタは中国で、『広汽豊田』と『一汽豊田』を持っているが、今後のEV時代を考えると、どうしてもナンバー1のBYDとの提携を確保したかったのだ。

 逆にBYDが欲しかったのは、『TOYOTA』という世界に通用する『看板』だけだった」

 BYDの有利な点は、もともと電池の会社なので、「EVの心臓部」と言える電池を、自社でまかなえることだ。この点は、トヨタにしてもテスラにしても、電池メーカーと提携しないとEVが作れないことを考えれば、大きな経費とリスクの回避になるというわけだ。

 ともあれ、長くトヨタを仰ぎ見ていたBYDは、いま明らかに独自の道へ羽ばたこうとしている。