2022年5月、「フィクサー」と呼ばれた男が間質性肺炎で亡くなった。JR東海の元社長・会長の葛西敬之氏だ。「国鉄改革三人組」と称された一人で、中曽根康弘から命を受け、瀬島龍三をバックに巨大な労働組合を解体した。地位を確立してからは「四季の会」を結成して安倍晋三を応援し、官邸官僚やNHKの経営委員の人事にまで強い影響を及ぼしてきた。
東大法学部から国鉄の高級官僚となり、この国の政治にも影響力を発揮した男の人生は強烈な逸話の数々に彩られている。葛西氏はどのようにして絶大な影響力を持つようになったのか。彼はいかにこの国の統治機構を歪めてきたのか──。『国商 最後のフィクサー葛西敬之』(講談社)を上梓したノンフィクション作家、森功氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──葛西さんは第二次安倍政権の時に、経産省出身の今井尚哉さんや警察庁出身の杉田和博さんなど、自分と深いつながりのある人たちを首相の側近に送り込み、「時に葛西は安倍から内閣の主要閣僚や官僚人事の相談を受け、アドバイスしてきた」と書かれています。なぜ安倍さんは人事について葛西さんに相談したのでしょうか。
森功氏(以下、森):安倍さんが葛西さんのことをとても頼りにしていたということです。葛西さんは霞が関の主要な高級官僚たちと太いパイプを持っていました。相談に乗るだけではなくて、特に官邸官僚と呼ばれる人たちに関しては、むしろ葛西さんの方から人選を提案していました。
もともと葛西さんが安倍さんと知り合ったのは第一次安倍政権の前です。2002年頃に結成された「四季の会」という懇親会があります。葛西さんの東大時代の同級生で、財務相や官房長官などを務めた元衆院議員の与謝野馨さんを総理大臣にすることを目的とした葛西さんと懇意の財界人の集まりです。
ところが、与謝野さんが「私ではなく彼を総理にしてくれ」と若き安倍晋三さんを葛西さんに紹介した。そして四季の会が中心となり、第一次安倍政権は形作られ、第一次安倍政権の秘書官たちが官邸官僚として第二次安倍政権に移行しました。
──エリート、反共主義、保守思想、愛国者、スパルタ教育思想、フィクサーなど、葛西さんには様々な形容詞が当てはまるように思います。葛西さんの人格や性格にどのような印象をお持ちでしょうか。