「保管したい」機密文書の魔力
大統領や副大統領に登りつめた御仁は、過去の栄光の思い出に日頃目にしていた国家機密文書を手元に置いておきたいものだろうか。
あるいは、私利私欲を満たすために秘かに盗み出したかったのか。
ドナルド・トランプ第45代大統領がホワイトハウスを去る際に膨大な数の極秘文書を持ち出してフロリダの私邸、マール・ア・ラーゴに保管していたことが、2022年に明らかになった。
トランプ氏は当局の度重なる返却要請に応じず。その後小出しに出し、最後は米連邦捜査局(FBI)のガサ入れ(家宅捜査)を受けた。司法省は国家機密漏洩罪容疑で目下捜査中だ。
事件発覚当時はともかく、今では米国民の大半が「すべてに型破りのトランプなら、さもありなんと」とさじを投げている(感すらする)。
2回も弾劾決議案が下院で可決・成立し、脱税・不正財務処理疑惑で訴追されている「史上稀有な大統領」ということもあって、今や不感症になっているからだ。
もっとも司法省は、2021年1月の米議会乱入事件と並行して、この件での訴追のタイミングを狙っているとされる。
だが権力欲をあまり表に出さぬ好々爺風のジョー・バイデン大統領が副大統領当時、閲覧していた極秘文書の一部を秘かに盗み出していた(?)となると、「ブルータス、お前も、か」と愕然としてしまう。
トランプ氏の容疑について「大統領記録法*1の厳格な適用はわが政権の最優先事案だ」と豪語していたバイデン氏だ。
*1=「大統領記録法」は大統領や副大統領に対し、退任後は直ちに公務に関する資料を国立公文書館に引き渡すよう定めている。リチャード・ニクソン第37代大統領のウォーターゲート事件後、その教訓から制定された。
「保管していたことは全く知らなかった。発覚後、直ちに国立公文書館に返却した」(リチャード・ソーバー大統領特別法律顧問)と弁解しているが、共和党は聞く耳を持たない。
下院で多数党になった共和党は12の委員会すべての委員長を独占する。
さしあたり、情報調査特別委員長がバイデン政権の関係者を召喚し、事情聴取を始めることになる。
バイデン政権内の動きも慌ただしくなってきた。
身内のメリック・ガーランド司法長官は、ジョン・ローシュ・イリノイ州北部地区(シカゴ)連邦検事に事実関係の調査を命じた。
ローシュ氏はトランプ氏に指名され、バイデン氏が留任させた連邦検事2人のうちの1人だ。