それだけに、この隊員たちについては、警察や消防などへの再就職といった危機管理組織内での人事運用の融通性や、自衛官としての経験を活かした再就職先の確保などが一層求められるところだ。

 任期制隊員のことをまるでアルバイトのように言う向きもあるようだが、この人たちがいなければ組織は成りたたない。貴重な隊員を少しでも増やせるような魅力化政策が必要だ。

少子化を言い訳にしてはならない

 縷々述べてきたが、巷間言われている「少子高齢化が進み、自衛官募集が大変な時代になっている」云々という話を聞くたびに、私には自衛官になる人が少ない理由をごまかしているように思えてならない。このような「人に冷たい職場」に人気が集まるわけがないのだ。

 一方で、人口減少や少子化が進んでいることもまた事実であり、今後、さらなる定年延長は既定路線となるだろう。ただし、むやみに定年を延ばして、給料が下がったり退官後の暮らしがますます厳しくなるようでは本末転倒だ。

 例えば第一線部隊と後方部隊を区分けして、定年も含めて柔軟に適材適所で運用する制度を構築することや、国が長年育てた人財である自衛官を地方の守りに活かせる方策などのフレームワークを早急に検討する必要があるだろう。

 応募が減って大変だと言う前に、現在の退官後の事情が、子供たちに夢を与えるものなのかどうかをぜひ考えてもらいたい。元将官がハローワークに行くような光景を見て、誰が自衛官になることを目指すだろうか。しかしこれが「抜本的防衛力強化」を目指そうとしている国の実態だ。

 自衛官の多くが誕生日に退職するシステムになっていることから、今日もどこかで退官行事が行われ、その数は毎年8000人近くとなる。定年制であれ任期制であれ、すべての自衛官が「自衛隊にいてよかった」という気持ちで門を出てもらいたいし、そうでなくてはならない。国費を投じて育てた人材を、もっと国のために活かせる施策を講じる必要がある。これは間違いなく国の責務だ。

桜林美佐
防衛問題研究家。昭和45年生まれ。東京都出身、日本大学芸術学部卒。防衛・安全保障問題を研究・執筆。2013年防衛研究所特別課程修了。防衛省「防衛生産・技術基盤研究会」、内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委員、防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等歴任。安全保障懇話会理事。国家基本問題研究所客員研究員。防衛整備基盤協会評議員。著書に『日本に自衛隊がいてよかった ─自衛隊の東日本大震災』(産経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸~星になった小さな自衛隊員~』(ワニブックス)、『自衛隊と防衛産業』(並木書房)、『海をひらく~知られざる掃海部隊~』(並木書房)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)など多数。趣味は朗読、歌。

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