実績を活かせない再就職先
若年定年制の自衛隊では、退職者の再就職のサポートをする必要があるということで、防衛省内に「就職援護」という部署があり、企業に対して再就職の依頼ができるようになっている。だが、様々な事情で再就職先を辞めてしまう例もある。保険会社に再就職したものの、元部下たちへの勧誘を期待されていることに苦痛を感じて退職したという話も聞いた。
そもそも斡旋される再就職先も、元自衛官としてのスキルが活かされているとは言えないものが多い。例えば、警備員や、高速道路の料金所、運送業、荷物の仕分け、旅館の送迎バスや幼稚園のドライバーなどである。中にはスーパーマーケットで勤務する人もいる。
特に地方の場合、かなりのキャリアがあっても時給750円の仕事にも就けないという現実が実際にある。子供の進学、親の介護などの理由から、よりマシな収入を得るために転職先を探さざるを得ない場合も多いと考えられる。
以前、ある雑誌で幹部自衛官の退官後のリポートがあり、○○小学校に再就職したとあったので、その方のキャリアからしててっきり教育者の立場で赴任したのかと思ったら、肩書は「用務員」だった。その立場で子供たちへの情熱を語られていたことに感動を覚えた。もちろん仕事に貴賤などなく、どんなポジションであれ、世のため人のために働くのは尊いことだが、自衛官時代に築いた実績や人物としての価値が十分に活かされていないと感じざるを得ない。
こうした場合、再再就職までは自衛隊でも支援しきれず自力での就職活動となるが、「20社受けて全滅でした」などと肩を落とす人もいた。
そうした中で近年、自治体の危機管理監や防災監として自衛官OBの採用が増えているのは朗報だ。経験豊富な自衛官OBが、都道府県のみならず市区町村の防災監などで一層活躍することを期待したい。ただ、採用されても、低位のポジションになることも少なくないようで、収入は大幅に減る場合が多い。それだけでなく、問題は首長に直接に意見具申できる地位でないとその存在意義が薄くなってしまうことだ。
まして週に1日しか出勤しないようでは形式だけになってしまう。自治労(全日本自治団体労働組合)との関係などもあるだけに難しい課題だとは思うが、有効にスキルを活かせる仕組みを望みたい。そうならないと、自衛隊側も優れたOBを提供できないという悪循環に陥ってしまいかねないからだ。
昇任するインセンティブがなくなってきている
働き手不足や年金支給年齢の引き上げを受けて、2020年、自衛隊でも定年が延長された。2曹・3曹は53歳から54歳へ。1曹~1尉は54歳から55歳へ、2佐と3佐は55歳から56歳へ、1佐は56歳から57歳へと引き上げられた。
しかし、定年を伸ばしてもすべてが解決するわけではなく、逆に新たな問題が生起してきている。その一例が、1佐と将官との差が近くなり過ぎることだ。
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