現在、将官の退職年齢はトップの統合幕僚長が62歳といった例外はあるが、基本的には60歳定年である。だが実際には将官のポストは極めて限られるため、将補は人事の都合上、60歳を前に退職を勧告されるケースがほとんどなのだ。そして、1佐には若年定年退職者給付金が支給される一方、将官にはそれは適用されないため、仮に今後、さらなる定年延長で1佐が58歳で退職するようになると、60歳手前で退職する将補と1佐との差が、金銭上ほとんどなくなる。

 この問題は今後調整が進められるものと思われるが、現時点でも、退官と同時に将補になる1佐、いわゆる「営門将補」も存在することから、現役の時に頑張って将補になるインセンティブがなくなっている可能性があり、さらに退職時の支給金額も1佐の方が多くなれば、将補の魅力はますます薄れてしまうことになる。

 自衛隊内でも「階級の高い人は退官後も悠々自適」といった怨嗟の声が聞かれることがよくあるが、事情は大きく変わってきている。

退官した翌日にハローワークに行くような実態では

 2020年7月、陸上幕僚監部の募集・援護課が退官予定の将官に関する情報を企業に渡していたとして、歴代の課長など関係者が軒並み処分される事案があった。当時の河野太郎防衛大臣は「あってはならないこと」と厳しく断罪した。実は将官に関しては、再就職の斡旋もない。将官になると60歳が定年のため一般職国家公務員と同じ扱いになることが2015年の自衛隊法改正で定められた。そのため、再就職の斡旋が禁止されたのだ。

 いわゆる「天下り」が社会問題となったためなのだろうが、退官直前に災害が起きるなど、現役時に自力で就職活動などできない場合もザラにあるだろう。昨今のように北朝鮮が連日ミサイルを発射し、中国の艦船や航空機が毎日のように領海・領空に接近している中、隊員の上に立つ将官に自分で仕事探しをしろと言うのだから、どうかしていると言わざるを得ない。

 常識で考えれば、高級指揮官が任務に集中できるよう組織として支えるのは当たり前のことだ。しかし「後は任せて下さい」と本人の代わりに援護活動にあたった担当者たちが厳しい処分を受けることになったのである。彼らは詰め腹を切らされ、厳しい減給や異動などの処分を受けた。それが根本的な問題解決に繋がるとは到底思えない。

 このような出来事を横目に、自衛隊幹部の中には「頑張って昇任しても何もいいことがない」という思いが蔓延しつつある。将官にまで出世しても、退官した翌日にハローワークに行くような実態では、キャリアアップに何も魅力を感じなくなるだろう。実際、退官した元将官が、再就職先も見つからないまま1年以上経っているといった話をしばしば聞くようになっている。

防衛事業からの撤退が再就職先の減少にも

 将官に限らず、3佐以上の自衛官には、利害関係のあった企業に自己求職できないなどの規制が設けられるようになった。これらは特定の企業への不正な利益誘導を防ぐ目的ということだが、いちOBの影響で装備品の決定を左右するなどあり得ず、あまりにも現実離れしている。

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