(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
『居酒屋で覚醒剤を売るな!』
そんな当たり前のことを看板表示して呼びかけている街がある。
大阪市西成区のあいりん地区、いまでも旧称で釜ヶ崎と呼ばれる界隈だ。いわゆるドヤ街として知られ、1960年代から日雇い労働者が暴動を繰り返した場所でもある。
その象徴的な存在でもある「三角公園」(正式名称は「萩之茶屋南公園」)では、毎年の年末年始に炊き出しが行われている。
3年ぶりに行動制限のなかった年末年始。諸事情から大阪を訪れることになり、この界隈に足を延ばしてみた。
そこでアーケードの下に貼り出された、冒頭の掲示を目の当たりにした。東京に生活拠点を置く者としては、見慣れない標語に衝撃を覚えたが、あとで大阪在住の知人に聞くと「そんなん、あるよ」で終わってしまった。
「家賃4万円」の物件が多いわけ
その周辺には飲食店に混ざって「カラオケ居酒屋」と看板を掲げた店が軒を連ねる。ガラス扉越しに店内をうかがうと、カウンター席が奥に延びていて、中に女性が立って接客している。そこでは馴染みと思しき客たちが、マイクを片手にモニター画面に見入って熱唱している。行動制限がないとはいえ、新型コロナの拡散にはひと役買いそうな空間が並ぶ。しかし、ここに暮らす人にとってはこれが日常のはずだ。そこに新型コロナが割って入って、日常を奪っただけのことだ。
三角公園を目指して歩いて、もうひとつ目についたのは、家賃が「4万円」という賃貸物件の多さだった。それより安いものはあっても、4万円を超える物件はまずなかった。それが生活保護受給のひとつの目安になることを知ったのは、そのあとのことだ。だから、4万円を越さないようにしているという。