天皇陛下に送った「持続可能な世界」へのアドバイス
篠さんが務めていた宮内庁御用掛は、お歌のご指南役以外にも、月ごとの締め切りを決めて、皇族や宮内庁の職員が天皇陛下にお歌をご詠進する、月次歌会(つきなみのうたかい)のお題を天皇陛下と相談して決定する役割も担っている。
篠さんから、一年間のお題が書かれた一覧を見せてくださったことがあったが、そこには、月次歌会のお題だけでなく、上皇さま、上皇后美智子さま、天皇陛下、皇后雅子さま、それぞれのお誕生日に際して、皇室の方々がお歌を詠まれる「ご誕辰(たんしん)」のお題も書かれていた。
平成までは両陛下のご誕辰のみだったが、令和になって上皇さまと上皇后さまのご誕辰も加わっている。10月20日は上皇后美智子さまのお誕生日、12月9日は皇后雅子さまのお誕生日、12月23日は上皇さまのお誕生日があり、秋から年末にかけて「ご誕辰」が続くため、皇室の方々はそれに向けてお歌を詠むのが忙しくなられるという。
篠さんは2020年、戦後75年を迎えて『戦争と歌人たち』(本阿弥書店)という大作を上梓した。戦地で死んだ人や囚われてしまったけれど戦争中に歌を詠んでいた人にフォーカスしたその書籍は、歌を切り口にして日中戦争から終戦までの激動の十年を短歌で振り返りつつ、平和の大切さを訴えていた。
生前、篠さんは、お歌を詠まれる天皇陛下に、こんなアドバイスを送っていたと明かしてくれた。それは昨今のSDGsを意識した「持続可能な世界」を推進するテーマであった。
「陛下は水の研究をされているので、そういった分野から日本人が人類に寄与していく、大きな視野に立って詠まれたらどうですかと提案しています。国民に向けてメッセージを伝えるには、陛下が歌会始の作品で示していくことが一番分かりやすいですからね」
2023年の歌会始のお題は「友」。きっと篠さんも、天国からそれぞれの作品に論評を加えているのかもしれない。