「誤解なき皇室の真の姿」を伝え続けた
そんな織田さんは、「上皇さまの広報係」を自認し、ことあるごとに上皇さまや美智子さまのお人柄を、長い交流の歴史を紐解きながら貴重なエピソードを交えて話してくれた。
なぜ積極的に上皇ご夫妻との交流を語ってきたかというと、上皇さまが天皇に即位し、平成5年に新たな御所が完成した時の出来事にさかのぼる。
上皇さまは、気の置けない友人の一人である織田さんを招待し、自ら建物の中を案内してくださった。
「ここが面会する部屋で、こちらがウェイティングルーム。新聞記者の質問に答えるのはこの部屋・・・」
織田さんは素晴らしい御所の佇まいに見惚れながら、上皇さま自ら内部の様子を教えていただいたことに感激したと言う。そしてお礼を述べて帰ろうとしたとき、上皇さまはふとこうおっしゃったと言うのだ。
「君はメディアに対応してくれないか。間違ったことを伝えると歴史が変わるからね」
それまでにも織田さんは、テレビで上皇ご夫妻のご結婚パレード中継の解説役を務めるなど、上皇ご夫妻の親しい友人としてマスコミにも認知されていた。そこで上皇さまも、織田さんにメディア対応をお願いされたのだろう。
以来、マスコミからの取材依頼があれば、大概の場合、快くそれに応じ、数々の皇室番組に出演してきた。三菱商事の商社マンとして多忙な日々を送っていた織田さんの心に常にあったのは、「誤解なき皇室の真の姿」を伝えたいという思いのみであった。
「上皇さまが直接話せない心情や誤って伝わっている出来事の真相について、私が上皇さまとの長い交流の中で知り得た本当のことを語ることは、当然の事と受けとめてきました。この役目は私一人に任されたものではなく、他の親しいご学友にも、同じ役目の方がおられるのではないかと思っております」
と、生前、織田さんは語っていた。
2019年5月5日、退位した上皇ご夫妻が初めて私的に外出し、東京ローンテニスクラブを訪問された際、織田さんは、上皇さまと美智子さまが出会われた頃の写真を持参。美智子さまにお見せすると「懐かしい」とおっしゃり、嬉しそうな表情をされていたという。
しかし、その後、新型コロナの流行もあって、織田さんが上皇ご夫妻と対面されたのは、その時が最後となってしまったのである。
戦後の「開かれた皇室」はどうあるべきか、そのことを模索する上皇さまを支え続けた、織田さんの人生であった。