高所得者層への増税方針を批判した楽天グループ・三木谷浩史会長兼社長の提言について尋ねた、西田亮介・東京工業大学准教授へのインタビュー。前編『「1億円の壁」論争、楽天トップ「富裕層への増税反対」が庶民の腹に落ちぬ訳』で西田氏は、むしろ「負担可能な高所得者には、相応の負担をしてもらうべき」だと指摘した。
後編の今回は、この提言が欠いている想像力について、西田氏が解説する。(聞き手:河合達郎、フリーライター)
※参考:「文春オンライン」が配信したYahoo!ニュース『三木谷浩史氏「政府与党は課税強化を見直すべき 有能な人材が日本から出ていく」』
※参考:新経済連盟・三木谷浩史代表理事による「高所得者層の税負担増加に向けた検討に対する緊急コメント」
子ども食堂はおかしい
――現在の個人所得税の最高税率は、昭和の時代に比べて低い水準です。平成の時代はおおむね「より簡素に」「より低く」というトレンドで推移してきました。
西田亮介氏(以下、西田氏):これから日本は大変難しい局面に向かっていきます。国が成長期にあれば「成果」や「果実」をどう分配するか、ということに再分配の主眼が置かれていいわけですが、今後はそうはいきません。
抽象的な意味で、日本社会が負うであろう「重し」をどう負担するのか。そんな議論がますます必要になってきます。
その時には当然のことながら、これまで優遇されてきた高所得者たちには相応の負担をしてもらうべきだと考えます。
例えば、子ども食堂っておかしいですよね。
最近、全国の子ども食堂の軒数は7000~8000軒にまで増えているという調査結果を目にしました。
※参考:「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」による子ども食堂軒数の調査結果
子ども食堂は緊急避難的にはもちろん必要だとは思いますが、本来はそういう社会にならないように、社会保障や賃金のありようを調整するのが国のあり方としてあるはずです。
しかし、子ども食堂が全国に7000とか8000とかないと、人がもう生活できない状況になってしまっている。見方を変えれば、そういう環境で働かざるを得ない現役世代が相当程度いる状況です。
住民税非課税世帯でなくても、実質的に生活困窮に陥っている人たちが相当いるということだと思います。コロナ禍もその状況を後押ししてしまったのではないでしょうか。
それはやっぱり、日本社会の衰退であり、失敗じゃないですか。再分配の機能がちゃんと働いてないということです。
――まさにそこを手当てするのが累進制、応能負担であると。
西田氏:日本においては、現役世代や若年世代が「弱者」になるということへの想像力がとても薄いのが現実です。
昔は子どもの数がとても多かったので、若者たちはほうっておいても強い存在でした。数が多く、政治的にも強かったのです。