デフレ脱却に道筋をつけた安倍元首相の手腕
雑誌『経済界』は毎年、1年に1度、その年に活躍した経営者・経済人等を対象に、「経済界大賞」を発表、1月に表彰式を行っている。
今年1月、東京・内幸町の帝国ホテル「孔雀の間」の壇上で大賞を受賞したのは、先日凶弾に倒れた安倍晋三元首相だった。安倍氏の受賞が決まったのは、2020年9月に安倍氏が首相を退任して間もなくのこと。本来、昨年に表彰式を行うはずだったが、コロナ禍のため1年延期されていた。
経営者ではない安倍氏が選ばれたのは、7年9カ月続いた第二次安倍政権時代の功績を評価してのこと。安倍氏が就任する直前の2012年、日本経済は瀕死の状態だった。2008年のリーマンショックの傷も癒えないうちに起きた2011年3月11日の東日本大震災は、経済的にも精神的にも日本に大打撃を与えた。これに対し当時の民主党政権は有効な対策を講じることができなかった。
当時の日本経済を象徴する言葉が「6重苦」。(1)円高(2)高い法人税率(3)自由貿易協定の遅れ(4)厳しい労働規制(5)温暖化ガス削減目標(6)電力不足──の6つで、これが原因で長らく続くデフレ経済から脱却できないと、財界の不満は高まっていた。
こうした状況下、安倍氏は自民党総裁として2012年12月16日の総選挙に勝利し、26日に首相に就任した。そして翌年、日本銀行総裁に黒田東彦氏を任命し、政府・日銀が一体となった大胆な金融・財政政策、すなわち「異次元の金融緩和」「機動的な財政出動」「成長戦略」の3本の矢からなるアベノミクスを進めていく。
これにより政権発足時1ドル80円前後だった為替レートは、2013年3月に100円を超える。また任期中に法人税率の引き下げやTPPの締結、労働者派遣法の改正など、6重苦の解消に邁進。安倍政権下で日本経済は71カ月にわたり景気拡大を続けた。
アベノミクスについては、「成長戦略が未達」「格差を拡大しただけ」などの批判もあるが、20年間にわたり日本経済を苦しめたデフレ脱却に道筋をつけたことは評価に価する。
大賞の評価の対象となったもう一つは、日本の国際的地位の向上だった。小泉政権後、毎年、首相が入れ替わったこともあり、日本の国際社会におけるポジションは低下する一方だった。ところが安倍氏は「地球儀を俯瞰する外交」を唱え、各国首脳との信頼関係を築いていった。安倍氏が亡くなった後、各国首脳の弔意が多数寄せられたが、このことが安倍氏の外交手腕を雄弁に物語っている。